未来の回想 | |
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いつだって同じ方向かつ常に同じ速度でしか流れない「時間」に意義を唱え、時間切断機の発明にのめりこむシュテレルを描いた小説。
中篇くらいの長さ。つまり薄い。
一般的なタイムトラベル小説では、時間旅行を可能とする機械が出来てからが本番だが、この作品はその前がメイン。時間旅行そのものは添え物的な扱いである。
視覚に訴えかける表現と、意外性を付く言葉選びが印象的な一冊。
SFや幻想小説が好きならば、楽しく読めるのではないだろうか。
個人的に一番の驚きどころは、ここ。
「戦争 война」という言葉は、はじめは新聞の八ポイント活字の中にまぎれていたが、しだいに文字を大きくし、ありとあらゆる新聞のありとあらゆる見出しから飛び出してきた。この言葉は二、三秒、シュテレルの視線を惹きつけたが、それというのもその最初の言葉と文字数がほかのもの――「時間 время」――を思いおこさせたから、というささいな理由だった。(p.44)戦争って女性名詞なのかよ! あ、時間の方は別に良いです。
ちなみに、私には何度書いても覚えられないお名前のクルジジャノフスキイさん、20世紀前半の人。
多数の作品を残しながらもソ連時代には発表が叶わず、今頃になって「発見」されたんだそうな。本国ロシアでも全集の刊行が終わったばかりらしい。
ソ連時代に不遇をかこち作品の出版が許されなかった作家は、だいたい朗読会を催しているイメージだが、このクルジャノフスキイも例に漏れない。
けれどもこの「未来の回想」はその会においても発表されず、ひたすら棚の中に仕舞われ続けて60年余り、ようやく発見されて日の目を見た次第。こうして日本語にもなったよ。
流石は悪魔に「原稿は燃えない(Рукописи не горят)」*1と言わせちゃうだけはあるよな、ロシア。他にも埋もれてないかしら。
クルジジャノフスキイの長編の翻訳はまだないが、短篇集が日本では去年、一昨年と1冊ずつ刊行された。
今後も長編の出版予定があるそうで、楽しみだ。
まぁその前に、私は買ったけれど読まずに放置している上記の短編集2冊を、積読タワーから発掘する旅に出ます。
ちなみにクルジジャノフスキイの綴りКржнжановскийはだそうで。なるほど、覚えられない。
*1:ブルガーコフの『巨匠とマルガリータ』での悪魔ヴォランドの台詞。
この作品はモスクワの実在する建物がいくつも出てくるため、地理を知っている人にはとても楽しい……らしい。
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