試訳の裏側:ソログープ「腕白な子」


 疲れたから次はもっと短いのを……と長さだけで選んだところ、日本語訳が存在しない作品をうっかり選択してしまった。
 まぁ短いから大丈夫じゃないかな、たぶん、きっと。

 原題は«Заплатки»、当て布とか継ぎ当てとか、そんな意味だと思われるが、作品内容を鑑みて変更した。ソログープさん、ごめんなさい。


作品の出典:
«Собрание сочинений в восьми томах  ТОМ 2. МЕЛКИЙ БЕС»収録、«Заклятие стен»Сказочки項目内«Заплатки»
 БИБЛИОТЕКА РУССКОЙ КЛАССИКИサイト内、Федор Кузьмич Сологубのページより)





 今回も、
  『パスポート初級露和辞典』(白水社)
  『岩波ロシア語辞典』(白水社)
  『NHK新ロシア語入門』(日本放送出版協会) にお世話になりました。


 例によってツッコミ等は歓迎しております。
 以下は、いつもの七転八倒な露文との格闘。





注:色つき文字部分は、私(春色)の独り言。
太字は原文、もしくは最終的な日本語訳。



Заплатки

メモ
заплата(←заплатки:?):継ぎ布、はぎれ

 先ずはタイトル……なのだが、これがいきなり分からん。
 タイトルになるくらいなのだから名詞、それも主格かと思いきや辞書に載っていない。
 заплатаが原型なのかなぁとは思うものの、-та-ткиに活用するのかどうかも不明。
 Google検索に突っ込んだところ、なんか複数形っぽい? まぁ、結局よく分からない。とりあえず、当て布のことを意味しているようだ。
 そんな訳でタイトルは本来「はぎれ」とでもすべきなのだが、上で書いたように、内容から考えて腕白な子に変更してみた。


Лазал Вася на березу, разорвал курточку.

メモ
лазать(←лазал:過去形・単数男性形):(不完了体)
 →слазать(完了体)
 →лазить(不完了体)/слазить(完了体):よじ登る、潜り込む
берёза(←березу:単数・対格):白樺
разорвать(←разорвал:過去形・単数男性形):破る、裂く(完了体)
 →разрывать(不完了体)
курточка(←курточку:単数・対格):ジャンパー、ジャケット

 Васяはワーシャで良いのかな。白樺はберёзеだけれど、ここでは何故かёではなくеになっている。
 他に気になるのは、лазатьлазитьの使い分け。後者の方がポピュラーな単語で前者はマイナーだという他にはサッパリ分からなかった。
 と疑問は残るものの、まぁ、訳してみよう。「ワーシャは白樺に登っていました、ジャケットが破けました」
 лазать(登る)は不完了体でразорвать(破る)は完了体。登っている途中で破けた、とのニュアンスがあるのだろうか。
 ワーシャが白樺に登ったところ、ジャケットが破けてしまいましたくらいで良いかな。


Мама нашила на курточку заплатки, и сказала Васе:

メモ
нашить(←нашила:過去形・単数女性形):(表面に)縫い付ける(完了体)
 →нашивать(不完了体)
сказать(←сказала:過去形・単数女性形):話す(完了体)
 →говорить(不完了体)

 完了体がсказатьで不完了体がговоритьとは、随分と形が違うなぁー。
 ママがジャケットに継ぎを当ててくれました、そしてワーシャに言いましたと言ったところか。
 動詞がどちらも完了体なのが意外だ。穴を繕いながらワーシャに話しかけたのではなく、繕い終わってから話しかけたってことか?


— Шалуны всегда с заплатками ходят.

メモ
шалун(←шалуны:複数・生格):悪戯っ子、腕白者
ходить(←ходят:現在形・三人称単数形):歩く、通う(不完了体)

 с+造格で、「~と共に」の意味だそうだ。なのでзаплаткамизаплаткиの造格だと思うのだが、でも一般的な格変化とは異なっていてサッパリ分からない。
 木登りでジャケットに穴を開けた子供に対する母親の台詞。腕白な子はいつだって継ぎと一緒に歩いているものね
 ……母親の台詞がワーシャを嗜める意図を持っているのかどうかで、訳が変わってくるのだが、今回この母親はどうなのかが分からぬ。なので単なる愚痴として訳してみた。


Пришел вечером дядя. Он был в очках.

メモ
прйти(←пришел(пришёл):過去形・単数男性形):(歩いて)やって来る(完了体)
 →приходить(不完了体)
вечером:夕方に、晩に
дядя:おじ、おじさん
очки(←очках:複数・前置格):眼鏡(複数形)

 「夕方、おじさんがやって来ました。彼は眼鏡を掛けています
 Он был в очкахと表現するんだ。意外だ。дядяは綴りにインパクトありすぎて、今回で完璧に覚えられそう。
 そしてそろそろ今回の話のオチが見えてきましたよ。

Поглядел на него Вася, да и говорит:

メモ
поглядеть(←поглядел:過去形・単数男性形):眺める、見る(完了体)
 →глядеть(不完了体)
говорить(←говорит:現在形・三人称単数形):話す(不完了体)

 говоритが現在形なんですけど!? 何故だ。前半の動詞поглядетьと後半の動詞говоритьで対象となる相手が違うから、一旦時制をズラすとか何とかの理由があるのか?
 まぁ時制を無視してしまうと、ワーシャはおじさんを見て、そしてこう言いましたになるかな。この動詞の前に良く見るиは、強意と見ていいのかどうか。



— Мама, а мама! Дядя-то у нас шалун: у него на глазах заплатки

メモ
глаз(←глазах:複数・前置格):目

 ママ、ママったら! おじさんこそ腕白っ子だよ。だっておじさんの目には、継ぎが当てられているもの
 у+生格の日本語訳って悩ましいなぁ。そしてдядя-тоのこの語末をどう日本語に反映しろと?





 前々回の「小石の冒険」、前回の「ひ弱い少年」と同じく勘違い系ながらも、以前の2作とは違い因果律を取り違える話とは違う展開を見せた作品でした。
 でも「継ぎを当てる」ことと「目の上に眼鏡が載っていること」を同一視するってのは、ちょっとキツいような。


 こうやって打ち込みながら思ったのは、今の子供は「継ぎを当てる」という日本語を知っているのかどうかとの疑問。
 この一篇の童話を本気で子供向けに訳すなら、「ワッペンで穴を隠してくれました」なんて表現にしないといけないんじゃなかろうか。

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