試訳の裏側:ソログープ「お前は誰だ? 1/5」

2014年07月09日更新


 モニター上で見ている分には分からなかったけれど、印刷したら一章が長かったよ。
 今までの作品では一章あたりA4の紙表裏(翻訳するのに紙に書いている)で3,4枚だったのが、今回8枚あるよ。
 おかげさまで私の右手が腱鞘炎気味でございます。しかもその割に、衝撃的な文章はないような……。


出典は以下: «Собрание сочинений в восьми томах Том 6. Заклинательница змей»収録、«Неутолимое»項目内«Мечта на камнях» БИБЛИОТЕКА РУССКОЙ КЛАССИКИサイト内、Федор Кузьмич Сологубのページより) 


今回も、
  『パスポート初級露和辞典』(白水社)
  『岩波ロシア語辞典』(岩波書店)
  『NHK新ロシア語入門』(日本放送出版協会) にお世話になりました。

 加えて既存の日本語訳
  「お前は誰だ?」 前田晁・訳(「早稲田文學 第百九十四號」収録)も参考にさせていただきました。


 例によってツッコミ等は歓迎しております。
 以下は、いつもの七転八倒な和訳への道。



注:色つき文字部分は、私(春色)の独り言。
太字は原文、もしくは最終的な日本語訳




Мечта на камнях

メモ
мечта:空想の産物、空想、夢想、願望、望み
камень(←камнях:複数形、前置格):石、岩

 まずはタイトル。「石の上での空想」
 石の上、を含む成句がロシアにあるのかもしれない。
 既存の訳では「石上瞑想」、「誰あれお前は」、「お前は誰だ?」と翻訳者それぞれで異なったタイトルになってはいるが、個人的に一番のお気に入りであるお前は誰だ?に揃えた。



Год за годом проходит, проходят века, и все не открыта человеку тайна о мире, и еще большая тайна о его душе. Спрашивает, испытует человек и не находит ответа. Мудрые, как и дети, не знают. И даже не всякий сумеет спросить:— Кто же я?

メモ
год за годом:年々、次第に
век(←века:生格):一世紀、(歴史上の)時代、期間、一生、生涯
открытый(←открыта:短尾形、女性形):開いている、何者にも遮られない、見通しのきく
человек(←человеку:与格):(社会的存在としての)人間
тайна:秘密
душа(←душе:前置格):心、胸中、霊魂、魂
спрашивать(←спрашивает:現在形、三人称単数形):問う、尋ねる、質問する(不完了体)
 →спросит(完了体)
испытывать(←испытует:現在形、三人称単数形?):試す、実験する、経験する(不完了体)
 →испытать(完了体)
найти(←находит:現在形、三人称単数形):(探して)見つめる、探し出す、考え出す(不完了体)
ответ(←ответа:生格):答え、返事、回答
мудрый(←мудрые:複数形):賢い、賢明な
даже:(ふつう後に続く語句を強調して)…さえ、…すら、…も
всякий:各人、誰でも
суметь(←сумеет:現在形、三人称単数形):…する能力を示す、…しおおせる(完了体)

 「年月は通り過ぎ、人生も去って行く、人間には全く開示されていない世界の秘密、更には人間の魂に関する大いなる秘密。質問し、経験し、しかし答えは見つからない。賢い人でも子どものように知らない。誰にだって尋ねられるわけでもない。『私は一体誰なんだ?』」
 冒頭の部分はたぶんお洒落なんだろうなとは思うものの、どう日本語にしろと言うんだ。『奥の細道』っぽく行けば良いのか?
 月日は刻々と過ぎゆき、世代は積み重なって行く。人間には明かされてはいないものがある。それは世界の秘密だけではなく、更に重要な人間の魂の秘密もだ。問い続けても、経験を重ねても、一向に答えは見つからない。賢き人とて、子どもと同じく知らないのだ。こう問うことすらも、全ての人々に出来ることではない。『一体私は誰なんだ?』と
 意訳が過ぎる気がしないでもないです、はい。



В конце мая в громадном городе уже было жарко. В узком переулке жарко и душно, еще душнее во дворе. Солнце, яркое с утра, накалило железные буро-красные крыши четырех, обставших тесный двор пятиэтажных каменных флигелей, их грязно-желтые стены и крупные булыжники сорной мостовой. 

メモ
конц(←конце:前置格):終端、末端、終わり、末
громадный(←громадном:前置格):巨大な、多数の
жарко:熱い、暑い
узкий(←узком:前置格):狭い、細い、窮屈な
перелок(←переулке:前置格):横町、小路
душно:蒸し暑い、鬱陶しい
солнце:太陽
яркий(←яркое:中性形):明るい、光の強い、眩しい
накалить(←накалило:過去形、中性形):高温に加熱する、灼熱する(完了体)
 →накаливать(不完了体)
железный(←железные:複数形):鉄の、鉄分を含む
буро-красные(複数形)
 бурый:褐色の
 красный:赤い、赤色の
крыша(←крыши:複数形):屋根
четыре(←четырех:生格):4
обставший(←обставших:複数形、生格):能動形容分詞過去
 →обстать:(廃)取り組む、囲む(完了体)
  →обставать(不完了体)
тесный:狭い、窮屈な
пятиэтажный(←пятиэтажных:複数形、生格):五階建ての
каменный(←каменных:複数形、生格):石の、岩の
флигель(←флигелей:複数形、生格):(家屋の)翼、離れ、袖
грязно-желтые(複数形)
 грязный:泥だらけの、汚い、汚れた、不潔な
 желтый:黄色い
стена(←стены:複数形):壁
крупный(←крупные:複数形):大きな、高額の、多額の
булыжник(←булыжники:複数形):(道路舗装・建築などに用いる)丸石、ごろ石
сорный(←сорной:女性形、生格):(口)ごみだらけの
мостовая(←мостовой:生格):舗装道路

 「五月の末、巨大な町はすでに暑かった。狭い横町も暑く鬱陶しく、中庭では一層酷かった。太陽は朝から明るく、熱していた、鉄を含む赤褐色の4つの屋根を、それは取り囲んでいる五階建ての石の翼棟の狭い中庭を、彼らの汚い黄色い壁と、ゴミだらけの舗装道路の大きな建設用の石で」
 最後の文の構造がよく分からない。取り囲まれていたのは中庭で、それを取り囲んでいるのが屋根と壁と石なのか? それとも取り囲んでいるのは屋根だけで、壁と石は太陽が熱している対象なのだろうか。
 ……後者を取ることにする。
 五月の末、巨大な町は既に暑さの中にあった。狭い横町は鬱陶しい暑さで、中庭となれば一層だった。太陽は朝から明るく、五階建ての石の翼棟の狭い庭を囲う鉄入りの赤褐色の屋根と、棟の汚い黄色い壁、ゴミだらけの舗装道路の巨大な建築用の石材とを高温に熱していた




Рядом с этим домом в переулке строили новый дом, такую же безобразную громаду с претензиями на новый стиль в нелепом фасаде. Оттуда тянуло на двор горьким, жестким запахом извести и сухой кирпичной пыли.

メモ
рядом:並んで、傍に、隣に
строить(←строили:過去形、複数形):建築する、建設する(不完了体)
 →построить(完了体)
безобразный(←безобразную:女性形、対格):醜い、不格好な、無様な、みっともない
громада(←громаду:対格):巨大物(建造物、船舶、山など)、大量、大群
претензия(←претензиями:複数形、造格):要求、苦情、不平
стиль:(芸術上の)スタイル、様式
нелепый(←нелепом:前置格): 常識外れの、話にならない、無意味な、馬鹿げた、不格好な
фасад(←фасаде:前置格):(建物の)外面、正面、(対象物の)立面図
оттуда:そこから、あそこから、それによって、それにともなって
тянуть(←тянуло:過去形、中性形):引く、引っ張る、引き寄せる、手繰る(不完了体)
горький(←горьким:造格):苦い、辛い、痛ましい、(口)不幸な、哀れな
жёсткий(←жёстким:造格): (手触りが)ごつごつした、かたい、強ばった、厳しい、激しい
запах(←запахом:造格):匂い、香り
известь(←извести:生格):石灰
сухой:乾燥した、乾いた
кирпичный(←кирпичной:女性形、生格):煉瓦の、煉瓦造りの
пыль(←пыли:生格):塵、埃

 「横町のこの建物の隣に、新しい建物が建てられていた、同じように不格好な巨大物、新しい様式の要求によって馬鹿げた正面を伴った。それによって中庭には、苦くざらざらした石灰の香りと乾燥した煉瓦の塵が引き寄せられた」
 横町にあるこの建物の隣では、同じように不格好で巨大な、新たな様式を取り入れた結果馬鹿げた正面を持つこととなった新しい建物が建設中であった。そのせいで、苦くてざらざらとした石灰の香りと、煉瓦の乾燥した塵とが中庭へと流れ込んだ 

 

На дворе кричали, бегали и ссорились ребятишки, дети дворника, прислуг и жильцов попроще. Двенадцатилетний Гришка, сын кухарки Аннушки из семнадцатого номера, смотрел на них из кухни, из окна четвертого этажа, на животе лежа на подоконнике и вытянув прямо свои тоненькие в коротких синих штанишках босые ноги.

メモ
кричать(←кричали:過去形、複数形):叫ぶ、悲鳴を上げる、(不完了体のみ)大声で話す(不完了体)
 →крикнуть(完了体・一回)
бегать(←бегали:過去形、複数形):[不定]走る、駆ける、走り回る(不完了体)
ссориться(←ссорились:過去形、複数形):喧嘩する、仲違いする、口論する(不完了体)
 →поссориться(完了体)
ребятишки:[指小・表愛](複数形)
 →ребята(複数形)
  →ребёнок:赤ん坊、幼児、子ども
дворник(←дворника:生格):門番、屋敷番
прислуга(←прислуг:複数形、生格):(廃)女中
жилец(←жильцов:生格?:(廃)(国・都市などの)住民、住人、(家・アパートなどの)居住者、間借人
попроще
 → по:[接頭辞](比較級に付して)もう少し、なるべく、の意
 → простой(←проще:比較級):庶民階級の、平民の、勤労者の

двенадцатилетний:12年間続く、12歳の
кухарка(←кухарки:生格):料理女、炊事婦
семнадцатый(←семнадцатого:生格):第17番目の
кухня(←кухни:生格):台所
четвертый(←четвертого:生格:第四の
этаж(←этажа:生格):(建物の)階
подоконник(←подоконнике:前置格):窓の敷居、窓台(窓の下側の棚状の枠)
вытянув:副分詞
 →вытянуть:(引っ張って)伸ばす、引き伸ばす、(手・足などを)真っ直ぐにする、伸ばす(完了体)
  →вытягивать(不完了体)
прямо:真っ直ぐに、一直線に、姿勢を正して、きちんと
короткий(←коротких:複数形、前置格):短い
штанишки(←штанишках:複数形、前置格):[指小・表愛](複数形)
 штаны:(複数形)(口)ズボン 

 「中庭では叫び、走り回り、喧嘩していた幼児と子どもたちが、門番の、女中の、もう少し庶民階級の間借人の。12歳のグリーシュカ、17号室の料理女アヌ-シュカの息子、は彼らを見ていた、台所から、四階の窓から、窓台の上に腹這いになりながら、青い短いズボンの中で自身の細い裸足の脚を真っ直ぐに伸ばしながら」
 門番や女中、更に庶民階級である間借人の子ども達が、中庭で大声を上げて走り回り喧嘩をしていた。十七号室の料理女アヌーシュカの十二歳になる息子であるグリーシュカは、台所で彼らを見ていた。四階の窓の枠に腹這いになり、短い青いズボンの中で自分の細い裸足の脚を真っ直ぐに伸ばして



Мать сегодня Гришку на двор не пустила, — так, каприз нашел. Припомнила, что Гришка вчера чашку разбил. Хоть и был он за это своевременно поколочен, но сегодня Аннушка опять припомнила ему это.

メモ
пустить(←пустила:過去形、女性形):放す、自由にする、行かせる、出してやる(完了体)
 →пускать(不完了体)
каприз:気まぐれ、むらっ気、我が侭
найти(←нашел:過去形、男性形):(口)(気分が)襲う、捕らえる(完了体)
 →находить(不完了体)
припомнить(←припомнила:過去形、女性形):思い出す、思い浮かべる(完了体)
 →припоминать(不完了体)
чашка(←чашку:対格):(ふつう取っ手の付いた陶磁器の)茶碗、カップ
разбить(←разбил:過去形、男性形):たたき割る、打ち壊す(完了体)
 → разбивать(不完了体)
хоть:(譲歩)…だけれども、…とはいえ、…にも関わらず
своевременно:折良くなされる、潮時な
поколоченный(←поколочен:短尾形、男性形):受動形容分詞過去
 →поколотить:(口)撲つ、どやす、ぶん殴る(完了体)
  →колотить(不完了体)


 「母は今日グリーシュカを庭に出してやらなかった、―そう、気まぐれが襲ったのだ。(彼女は)思い出した、グリーシュカが昨日、茶碗をたたき割ったのを。とは言え、彼はこのせいで折良く殴られたのだが、今日アヌーシュカは再び彼にこれを思い出させたのだった」
 母は今日、グリーシュカを外に出してはやらなかった――それは気まぐれのせいだった。昨日グリーシュカが茶碗を割ってしまったことを彼女は思い出したのだ。とは言えど、彼はこのことで既に叩かれていたのだが、それでもアヌーシュカはこの出来事を今日再び彼に思い出させたのであった



— Только балуешься, — сказала она. — Нечего по двору бегать. Сиди дома. Уроки бы учил.

— Я без экзамена, — с гордостью напомнил Гришка.

メモ
только:ただ…だけ、もっぱら
баловаться(←балуешься:現在形、二人称単数形):(口)遊び騒ぐ、遊び巫山戯る、(俗)乱暴する、悪さをする(不完了体)
нечего:[否定]…すべきものがない、…するに及ばない、…する必要が無い
учить(←учил:過去形、男性形):教える、(反復して)覚える、予習・復習する、(口)学ぶ、勉強する(不完了体)
без:…なしに、…なしで、…の留守中に、…の他に
экзамен(←экзамена:生格):(学業の)試験
гордость(←гордостью:造格)誇り、自尊心、プライド
напомнить(←напомнил:過去形、男性形):(思い出させるために)言う、思い出させる、想起させる(完了体)
 →напоминать(不完了体)


 「『悪さばかりするんだからね』。彼女が言った。『中庭で走り回る必要は無いよ。家に居な。宿題の予習復習だって出来るだろう』。
 『僕には試験はないよ』。誇りを持ってグリーシュカは思い出させるために言った」
 『全く悪いことばかりするんだからね』、彼女はそう言った。『中庭で走り回る必要なんて無いよ。家に居な。授業の復習だって出来るだろうしね』。
 『僕には試験はないんだってば』。誇らしげにグリーシュカは言った




И, как всегда при воспоминании о своем школьном торжестве, радостно засмеялся. Но мать посмотрела на него сурово и сказала:

— Без экзамена, так и сиди, пока не колочен. Чего зубы скалишь? Я бы на твоем месте никогда не улыбнулась.

メモ
воспоминание(←воспоминании:前置格):思い出すこと、思い出、追憶、回想
школьный(←школьном:前置格):学校の
торжество(←торжестве:前置格):儀式、祝典、勝利、大成功、頂点、絶頂
сурово:厳しく、きつく、厳格に
скалить зубы:(犬などが)歯を剥き出す、(俗)にたりと笑う
улыбнуться(←улыбнулась:過去形、女性形):微笑する、微笑む(完了体)
 →улыбаться(不完了体)


 「そしていつも自分の学校での勝利に附属して、嬉しげに笑い始めるのだった。しかし母は彼を厳しく見て、言った。
『試験無し、いいから座っておいで、撲たれない内に。何歯を剥き出しているんだい? 私がお前の立場なら決して微笑んだりしない』」
 「自身の学校での勝利について思い出す時にはいつだって、嬉しげに笑い始めるのだった。しかし母は彼を厳しく見て言った。
 『試験がない? それでも座っておいで、打たれない内にね。どうして歯を見せているんだい? もしも私がお前のと同じ立場にいたら、決して笑ったりしないよ』
 辛辣じゃのう。 
 


Эту загадочную для Гришки фразу Аннушка любила иногда повторять. С тех пор как ее муж, портной, умер и ей пришлось жить в прислугах, она считала себя и Гришку несчастными и, думая о своем и о Гришкином будущем, всегда представляла себе это будущее в черном свете. Гришка перестал улыбаться, и ему стало неловко.

メモ
загадочный(←загадочную:女性形、対格):謎の、謎めいた、得体の知れない、不思議な
фраза(←фразу:対格):句、フレーズ、文句、決まり文句
повторять:繰り返して言う(不完了体)
 →повторить(完了体)
портной:裁縫師、仕立屋
с тех пор, как…:…して以来
прийтись(←пришлось:女性形、前置格):[無人述](ないかの事情で)…しなければならなくなる、せざるを得ない(完了体)
 →приходиться(不完了体)
жить в 前置格:(廃)住み込みで働く、…として働く
прислуга(←прислугах:前置格):(廃)女中
считать(←считала:過去形、女性形):…を…と考える、見做す、…と思う(不完了体)
несчастный(←несчастными:複数形、造格):不幸な、惨めな
думая:副分詞
 →думать:考える、思う(不完了体)
будущий(← будущем:前置格):未来の、将来の
представлять(←представляла:過去形、女性形):紹介する、(小説・絵などで)示す、描く、(…として)描く、特徴付ける、(不完のみ)理解する、意識する、知っている(不完了体)
 →представлять(完了体)
свет(←свете:前置格):世界、世の中
перестать(←перестал:過去形、男性形):…するのを止める(完了体)
 →переставать(不完了体)
неловко:[無人述]不便だ、窮屈だ、きまりが悪い、ばつが悪い、気まずい、気詰まりだ
 

 「グリーシュカにとって不思議なこの決まり文句を、アヌーシュカは繰り返して言うのを好んでいた。彼女の夫、裁縫師、が死んで以来、彼女は女中として住み込みで働かざるを得なくなり、彼女は自信とグリーシュカのことを不幸だと考え、自身のことについてもグリーシュカの未来についても考えながら、黒い世界の中に常に自身でその未来を不幸として描いた。グリーシュカは微笑むのを止め、彼は気まずくなった」
 グリーシュカには奇妙に思えるこの台詞を、アヌーシュカは好んで度々口にした。裁縫師であった夫が死んで以来、女中として住み込みで働かざるを得なくなった彼女は、自身とグリーシュカのことを不幸だと見做しており、自分とグリーシュカの未来について、これを常に不幸なものとして黒い世界の中に描き出すのだった。グリーシュカは笑うの止めた。気詰まりになってきた。 



Впрочем, идти на двор ему не хотелось. Он и дома не скучал. У него была еще не прочтенная книжка с картинками, и он взялся за нее. Но он читал ее недолго. Взобрался на подоконник, засмотрелся на ребят. Потом, отгоняя ощущение легкой головной боли, принялся мечтать.

メモ
впрочем:でも、しかし、とは言え
скучать(←скучал:過去形、男性形):退屈する、倦怠する(不完了体)
прочтенный(←прочтенная:女性形):受動形容分詞過去
 →прочесть:読む
книжка:(口)本、帳簿、小型本
картинка(←картинками:複数形、造格):挿絵
взяться(←взялся:過去形、男性形):(手に)とる、掴む、掴まる(不完了体)
 →браться(完了体)
недолго:しばらくの間
взобраться(←взобрался:過去形、男性形):(苦労して)よじ登る、這い上がる(完了体)
 взбираться(不完了体)
засмотреться(←засмотрелся:過去形、男性形):見惚れる、見とれる(完了体)
 засматриваться(不完了体)
потом:その後に
отгоняя:副分詞
 отгонять:追い払う(不完了体)
  отогнать(完了体)
ощущение:感覚、感じること
головной:首の、頭の
боль(←боли:生格):痛み、苦しみ、悲しみ
приняться(←принялся:過去形、男性形):受け取る(完了体)
 принимать(不完了体)
мечтать:空想にふける、空想する、想像する

 「とは言え、彼は庭に行きたいと欲してはいなかった。彼は家で退屈しなかった。彼にはまだ読まれていない挿絵付きの本があり、それを彼は手に取った。しかし彼は暫くの間しかそれを読まなかった。窓台の上によじ登り子供たちに見とれた。その後に、頭の軽い痛みの感覚を追い払いながら、空想にふける始めた」
 とは言え、彼は庭に行きたいと思ってはいなかった。彼は家に居ても退屈しないのだった。まだ読んでいない挿絵付きの本があったので、それを手に取った。しかし読んだのは暫くの間だけだった。窓台の上によじ登り、子供たちに見入った。その後には、軽い頭痛を追い払いながら、空想を始めた
 


Мечтать — это было любимое Гришкино занятие. Мечтал он по-разному и о разном, но всегда ставил себя в центре своих мечтаний, преображая мечтою и себя, и мир. Ложась спать, Гришка всегда принимался мечтать о чем-нибудь нежном, радостном, немножко стыдном, жутком, иногда страшном, — и засыпал очень приятно, хотя бы днем и были неприятности.

メモ
любимый(←любимое:中性形):愛する、いとしい
занятие:占めること、占領、仕事、作業、職業、やること
по-разному:様々に、違った風に
разный(←разном:前置格):異なる、違った、別々の、様々な
центр(←центре:前置格):中央
мечтание(←мечтаний:複数形、生格):空想すること、空想の産物、願望
преображая:副分詞
 преображать:変形させる、変容させる、すっかり変える(不完了体)
  преобразить(完了体)
ложась:副分詞
 ложиться:(人・動物が)横たわる、伏せる、寝る(不完了体)
  →лечь(完了体)
спать:眠る
приниматься(←принимался:過去形、男性形):取り掛かる、着手する(不完了体)
 приняиться(完了体)
что-нибудь(←чем-нибудь:前置格):(何でもよい)何か、何なりと
нежный(←нежном:前置格):優しい、心地よい、甘美な
немножко:[指小](口)
 немного:少し、軽く
стыдный(←стыдном:前置格):(口)恥ずかしい、きまりが悪い
жуткий(←жутком:前置格):恐ろしい、気味の悪い
страшный(←страшном:前置格):恐ろしい、恐るべき、気味の悪い
засыпать(←засыпал:過去形、男性形):寝入る(不完了体)
 →заснуть(完了体)
приятно:心地よく、愉快に、楽しく、感じよく
хотя:(俗)せめて…でも、少なくとも、…さえも
хотя бы:…だったとしてもднём:昼間に、日中に、午後に
неприятность(←неприятности:複数形):不愉快なこと、いやな目

 Гришкиноの格が分からない。
 「空想すること―これが愛しいグリーシュカの行為だった。彼は様々に、様々なことについて空想したが、常に自分の空想の中央に自分を置いた、空想と自分、そして世界をすっかりと変えながら。眠るために横になりながら、グリーシュカはいつも空想に取り掛かった、何か心地よく、喜ばしく、少し恥ずかしくて、恐ろしく、時々気味の悪いことについて―そして大いに愉快に寝入るのだった、日中に不愉快なことがあったとしても」
 グリーシュカさんも色々とあるんですよ。たぶん二章以降で出てくると思うけれど。
 空想すること――これはグリーシュカにとって楽しい行為であった。彼は様々な方法で、様々なことについて空想した。空想と自分、そして世界をも色々と変えても、常に自分のことをその空想の中心に置いていた。眠るために横になりながらも、グリーシュカはいつも空想をしていた。何か心地よく、喜ばしく、少し恥ずかしくて、気味が悪く、時折は怖ろしいことについても。そうしてそのまま大いに心地よく眠りに落ちるのだった、例え日中に不愉快なことがあったとしても




Днем часто выпадают неприятности на долю мальчика, который вырастает в кухне, у бедной, раздражительной, капризной, недовольной своею судьбою матери. Чем неприятнее были неприятности, тем слаще утешала мечта. И так жутко и весело было представить что-нибудь страшное, кутаясь с головою в одеяло.

メモ
выпадать(←выпадают:現在形、三人称複数形):滑り落ちる、転げ落ちる(不完了体)
 выпасть(完了体)
доля(←долю:対格):部分、分け前、分担
вырастать(←вырастает:現在形、三人称単数形):伸びる、成長する、大きくなる(不完了体)
 вырасти(完了体)
бедный(←бедной:女性形、生格):貧しい、貧乏な
раздражительный(←раздражительной:女性形、生格):怒りっぽい
капризный(←капризной:女性形、生格):気まぐれな、勝手な、我侭な
недовольный(←недовольной:女性形、生格):不満な、不服な
судьба(←судьбою:造格):運命、宿命
чем+比較級, тем+比較級:…であればあるほど(ますます…だ)、…すればするほど(ますます…する)
неприятный(←неприятнее:比較級):不快な、不愉快な、嫌な
сладкий(←слаще:比較級):気持ちの良い、快い、楽しい、甘美な
утешать(←утешала:過去形、女性形):慰める、気を晴らしてやる、(口)喜ばす(不完了体)
 утешить(完了体)
весело:陽気に、愉快に
представить:提出する、差し出す、渡す、描く、示す(完了体)
 представлять(不完了体)
кутаясь:副分詞
 кутаться:しっかり身を包む、包まる(不完了体)
одеяло:毛布、掛け布団

 「昼間はしばしば不愉快なことが滑り落ちてきた少年の場所に、(その少年とは)成長した台所で、貧しく、怒りっぽい、気まぐれで自分の運命に不満の母親のところで。不愉快なことが不愉快であればあるほど、空想はますます甘美に慰めてくれるのだった。不気味で陽気だった恐ろしい何かを描くことは、頭を掛け布団に包みながら」
 昼間はしばしば不愉快なことに見舞われる少年は、台所で成長したのだった。貧しくて怒りっぽく気まぐれで、自分の運命に不満を抱く母親の元で。不愉快なことが不愉快であればあるほどに、空想はますます甘美な慰めとなった。頭を掛け布団に突っ込みながら、恐ろしい何かを思い描くことは不気味でもあり愉快でもあった




Утром, проснувшись, Гришка вставать не торопился. В том коридоре, где он спал, идущем от кухни до барыниной спальни, было темно и душно; сундук, на котором расстилалась Гришкина постель, не так был мягок, как пружинный матрац на господских кроватях, куда он иногда забирался поваляться в отсутствие господ, если мать не доглядит. 

メモ
проснувшись:能動形容分詞過去
 →проснуться:目覚める(完了体)
  →просыпаться(不完了体)
вставать:起立する、立ち上がる、起床する(不完了体)
 →встать(完了体)
торопиться(←торопился:過去形、男性形):急ぐ、急いでやる(不完了体)
 →поторопиться(完了体)
коридор(←коридоре:前置格):廊下
идущий(←идущем:前置格):能動形容分詞過現在
 →идти:(一定の方向に)進む、行く(不完了体)
барыниный(←барыниной:女性形、生格? :?
 ←? барыня:(召使いから見て)女主人、奥様
спальня(←спальни:生格):寝室
темно:暗く、黒く
душно:息苦しいほど暑苦しく
сундук:(衣類・貴重品などを入れる鍵の付いた)長持、櫃 
расстилаться(←расстилалась:過去形、女性形):敷き詰められる、一面に広がる、一面を覆う(不完了体)
 →разостлаться(完了体)
постель寝具、(寝具を含めた)ベッド
не так А, как ББほどАではなかった 
мягкий(←мягок:生格):柔らかい、ふわふわした
пружинный:バネ付きの、スプリング入りの
матрац
 → матрас:敷き布団、マットレス
господский(←господских:前置格):(下僕から見て)主人の
кровать(←кроватях:前置格):寝台、ベッド
забираться(←забирался:過去形、男性形):よじ登る、這い込む、潜り込む(不完了体)
 →забраться(完了体)
поваляться:(口)(しばらく)転がる、転げ回る、ごろごろしている
отсутствие:欠席、欠勤、不在、留守
господин(←господ複数形、生格):(召使いから見て)主人、旦那、奥方
доглядеть(←доглядит:現在形、三人称単数形):(ふつう否定詞とともに)気をつける、目を届かせる(完了体)
 →доглядывать(不完了体)

 「朝、目覚めたグリーシュカは急がずに起床した。この廊下、そこは彼が寝ている場所である、は台所から女主人の寝室へと繋がっていたそこは暗く息苦しいほど暑苦しかった;櫃、その上にはグリーシュカの寝具が一面に広げられている、は主人のベッドの上のスプリング入りのマットレスほど柔らかくなかった、そこは彼が時々ごろごろするためによじ登った、主人の不在の際に母親が気をつけていない時に」
 「(衣類・貴重品などを入れる鍵の付いた)長持、櫃 」ってどうしようコレ。箪笥で良いかな。
 朝、目覚めたグリーシュカはゆっくりと起床した。彼が寝ている廊下は、台所から女主人の部屋まで伸びていた。その場所は暗く、息苦しいほどに暑苦しかった。そこに置かれた箪笥の上の一面に引き詰められたグリーシュカのベッドは、主人のスプリング入りのマットレスほど柔らかくはなかった。主人が不在で母親が目を離した隙に、彼はそのベッドで時々寝っ転がっていたのだ



Но все-таки здесь было уютно и спокойно, пока не вспомнит, что пора идти в школу, или, не в учебный день, пока не прикрикнут, чтобы вставал. А бывало это только тогда, когда надобно было послать его в лавочку или заставить что-нибудь сделать. В другое время матери было не до него, и она даже рада была, что сын спит, не надоедает, не суется под ноги, не торчит в глазах.

メモ
всё-таки:それでも、それにも関わらず
уютно:居心地良く、快適に、寛いで
спокойно:静かに、穏やかに、落ち着いて
вспомнить(←вспомнит:現在形、三人称単数形):思い出す、思い起こす(完了体)
 →вспоминать(不完了体)
пора:時間、時
прикрикнуть(←прикрикнут:現在形、三人称単数形):怒鳴りつける、叱りつける(完了体)
 →прикрикиввть(不完了体)
вставать(←вставал:過去形、男性形):起立する、立ち上がる、(植物などが)伸びる(不完了体)
 →встать(完了体)
бывало:よくあったことだが、よく…したものだ
тогда:その時、その頃、当時、途端に、ちょうどその時間
надобно:[述](廃)(俗)надо:[無人述]…する必要がある、…せねばならない、必要である
послать:(人を)行かせる、派遣する、やる、(物を)送る(完了体)
 →посылать(不完了体)
лавочка(←лавочку:対格):[指小]лавк:小さな店
заставить:…に…するよう強いる、余儀なく…させる(完了体)
 →заставлять(不完了体)
время:(一定の長さの)時間、時、期間
рад(←рада:生格):[述]嬉しく思う、喜ぶ
надоедать(←надоедает:現在形、三人称単数形):うるさがられる、飽き飽きさせる、うんざりさせる(不完了体)
 →надоесть(完了体) 
соваться(←суется:現在形、三人称単数形):(あわてて・よく考えずに)突進する、潜り込む、(不完了体のみ)せかせか動き回る(不完了体)
 →сунуться(完了体)
торчать(←торчит:現在形、三人称単数形):突き出ている、はみ出す、(口)(場違いな場所・望ましくない所に)しゃしゃり出る、居座る(不完了体)
 
 「しかしそれにも関わらず、そこは居心地が良くて穏やかであった、学校にいく時間だと思い出すまでは、あるいは授業のない日、起きろと怒鳴られるまでは。一方でこの頃にはよくあったもっぱらこんな時が、彼が小さな店に行かされねばならなかったり、何かしらやることを強いられたり。別の時には、母は彼のところには行かなかった、彼女はとても嬉しく思っていた息子が寝ていることを、うんざりさせられることがなく、足の周りをせかせか動き回ることがなく、眼の中にしゃしゃり出ることもない」
 一文目の「そこ」は、グリーシュカの快適度数が低そうな寝床のことだな。
 しかしそれでも、彼の寝床は居心地が良くて落ち着いていた。学校に行く時間だと思い出したり、授業のない日に起きろと怒鳴られるまでは。だがこの頃には、小店に買い物に行かされたり、何かしらやらされることもよくあった。しかし用がなければ母親は彼のところには来なかった。息子が寝ていることを彼女はとても嬉しく思っていたからだ。寝てさえいれば、彼にうんざりさせられたり、脚の周りを動き回られたり、視界にしゃしゃり出て来られることもないのだから 



 いい加減長くなってきたので、一章を二つに分けることにした。次回は一章後半。

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