試訳の裏側:アンドレーエフ「イヴァン・イヴァノヴィッチ 1/7」

2015年09月04日更新


 ソログープの「イヴァン・イヴァノヴィッチは甦れり」を訳した後に、アンドレーエフの「イヴァン・イヴァノヴィッチ」なる作品を見付けたので、読んでみた次第。
 よくある名前、日本で言うところの田中太郎さんですが。……今時、山田太郎って名前は逆にレアな気がするぜ。イヴァン・イヴァノヴィッチさんはそうでもないのかな?

 元の作品は二章しかないのだが、私の都合で七分割。今回は一章の頭1/3をお送りします。

出典は以下:
《ТОМ 3. ПОВЕСТИ, РАССКАЗЫ И ПЬЕСЫ 1908-1910》収録《Повести и рассказы》項目内《Иван Иванович》(БИБЛИОТЕКА РУССКОЙ КЛАССИКИサイト内、Леонид Николаевич Андреевのページより)


今回も、
  『岩波ロシア語辞典』(岩波書店)
  『NHK新ロシア語入門』(日本放送出版協会) にお世話になりました。
加えて『ロシア文学鑑賞ハンドブック群像社)、『現代ロシア話しことば辞典(NISSO)にもお世話になりました。


 例によってツッコミ等は歓迎しております。
 以下は、いつもの七転八倒な和訳への道。


注:色つき文字部分は、私(春色)の独り言。
太字は原文、もしくは最終的な日本語訳。


I

На Иване Ивановиче было новое пальто – совершенно новое, великолепного сукна, серого, с нежным серебристым оттенком. Ему не советовали брать такой цвет – марок и вообще не практичен, но он был молодой человек и желал быть красивым. И он был красив, и на душе было радостно и гордо; и если нельзя было вообразить себя генералом или гвардейским офицером, то во всяком случае ясно чувствовалось, что он лучший изо всех околоточных надзирателей, какие есть в Москве и, быть может, даже в других городах. Сзади, в двух шагах за Иваном Ивановичем, шли трое городовых в черных шинелях, башлыках и с ружьями.

メモ
совершенный(←совершенно:短尾、中性形):完璧な、完全な、申し分の無い
великолепный(←великолепного:生格):壮麗な、豪華な;(口)素晴らしい、見事な
сукно(←сукна:生格):ラシャ
нежный(←нежным:造格):優しい、肌触りの良い、しなやかな
серебристый(←серебристым:造格):銀色の
оттенок(←оттенком:造格):(色・音などの)ニュアンス、微妙な差、色合い、音色
советовать(←советовали:過去形、複数形):助言する、忠告する、勧める;(否定表現で)(口)(…しないように)警告する(不完了体)
марка(←марок:複数形、生格):切手、商標、ブランド;(口)評判、名声、品質、種類
маркий(←марок:複数形、生格):(布・衣服などが)汚れやすい
вообще:全体として、大体において、どんな場合にも、いつ;基本的に、原則として
практиченый(←практичен:短尾、男性形):実地に、慣れた、世慣れた;実用的な、役に立つ
желать(←желал:過去形、男性形):欲する、望む(不完了体)
радостно:喜んで、嬉しげに;[無人述]嬉しい、楽しい
гордо:誇り高く、誇らしげに、得意げに、堂々と
вообразить:想像する、空想する(完了体)
 →不完了体:воображать
генерал(←генералом:造格):(陸・海・空軍の)将官、将軍
гвардейский(←гвардейским:造格):親衛隊の、近衛兵の
офицер(←офицером:造格):将校、士官
всякий(←всяком:前置格):(単)それぞれの、どの…も、ありとあらゆる、様々の
во всяком случае:いつだって
ясно:明るく、ハッキリと、明瞭に、明快に
хороший(←лучший:比較級):よい、立派な
околоточный(←околоточных:複数形、生格):(帝政ロシアの都市の)警察分署の;(帝政ロシアの都市の)警察分署長
надзиратель(←надзирателей:複数形、生格):(帝政ロシアの官僚としての)監視者、管理人
околоточный надзиратель:(帝政ロシアの都市の)警察分署長
быть может:たぶん
сзади:後ろから、後方に、後ろに
шаг(←шагах:複数形、前置格):一歩、一足;(複)足音
в двух шагах за+造格:…の二歩後ろ
городовой(←городовых:複数形、生格):(帝政ロシアの)巡査
шинель(←шинелях:複数形、前置格):(軍人・学生・官吏のための背に襞とベルトのついた)制服外套
башлык(←башлыках):(頂点のとがったラシャ製の)防寒用頭巾、フード
ружьё(←ружьями:複数形、前置格?):鉄砲、小銃

 まず大前提として、このイヴァンさんは警察分署長でもなんでもなく、ただの一介の警察官らしい。でも辞書にはоколоточныйは警察分署長って載ってるんですけどね。うーん。
 「イヴァン・イヴァノヴィッチは新しいコートの中にいた――申し分なく新しく、豪華なラシャの、灰色の、優しい銀色の色合いを伴った。彼は忠告されていなかった、このような色を取ることを――汚れやすくて原則として実用的でないと、しかし彼は若い人であったし美しくあることを望んでいた。そして彼は美しかったし、胸の中は嬉しくて誇らしかったし;もしも自身を将軍や近衛兵将校だと想像出来ないのならば、いつだって明るく感じられるのだった、彼が全ての警察分署長の中でも素晴らしく、これらのモスクワの中の、たぶん、別の都市の中ですら。後ろから、イヴァン・イヴァノヴィッチの二歩後ろに、三人の巡査たち黒い制服外套の中の、フードの、小銃と共に、が行った」
 日本語だと二歩後ろってなんか変な感じ。一歩とか三歩とか奇数が普通じゃない?って最初は思ったけれど、こうして長時間見てたらもうよく分からなくなったぜ!
 イヴァン・イヴァノヴィッチが着ていたのは新しいコートだった――ピカピカの新品で、豪華なラシャの、柔らかな銀色の風合いを持った灰色をした。彼は色について忠告されなかった――汚れやすく、だいたいにおいて実用的ではないと。しかし彼は若い人であったし、美しくあることを望んでいた。実際に彼は美しく、胸の中は喜ばしく誇らしかった。つまりもしも自分が将軍や親衛隊の将校だと想像できないのならば、何時だってこう明るく考えるのだった。モスクワ中の、恐らくは別の都市の、全ての警察官の中でも自分が一層素晴らしいと。後ろから、イヴァン・イヴァノヴィッチの二歩後に、黒い制服外套とフードの、小銃を携えた三人の巡査たちは進んだ


Ружей они не умели держать, они им мешали и только нагоняли страх; и лица были у них мрачные, недовольные, а шаги они делали короткие, точно сберегали пространство и старались сохранить запас его позади себя. Они боялись дружинников. Но Иван Иванович не боялся и шел молодцевато, с легким вывертом. В городе уже стреляли, но в ихнем участке было тихо, и только в двух-трех местах достраивали запоздалые баррикады. И на нем было новое пальто.

メモ
держать:(落ちないように)手に持っている、握っている、抱えている(不完了体)
мешать(←мешали:過去形、複数形):кому-чему,инф 妨げる、邪魔する(不完了体)
 →完了体:помешать
нагонять(←нагоняли:過去形、複数形):кого-что…に追いつく;(口)(業績・成果などで)…と肩を並べる、…と同列に並ぶ(不完了体)
 →完了体:нагнать
страх:恐れ、恐怖、畏怖
мрачный(←мрачные:複数形):闇に包まれた、暗い;重苦しい、希望のない
недовольный(←недовольные:複数形):不満な、不服の
короткий(←короткие:複数形):短い;素早い、果断な
точно:正確に、的確に/あたかも…のように、まるで…のように
сберегать(←сберегали:過去形、複数形):кого-что保存する、保管する、保持する、(記憶・心に)留める(不完了体)
 →完了体:сберечь
пространство:空間;空いている場所、スペース
стараться(←старались:過去形、複数形):努力する、精を出す、骨折る;инф…しようと務める、試みる(不完了体)
 →完了体: постараться
сохранить:大切に保管・保存する、保護する;忘れない、(記憶・心に)留める(完了体)
 →不完了体:сохранять
запас:蓄え、備え、在庫;(知識・能力などの)蓄積、蘊蓄、造形;[軍]予備役
позади:後ろに、後方に;もう過ぎた、もう終わった;кого-чего…の後ろに
бояться(←боялись:過去形、複数形):кого-чего恐れる、怖がる;心配する、懸念する、用心する(不完了体)
дружинник(←дружинников:複数形、生格):(自発的社会団体の)団員、隊員;従士、義勇隊員
молодцевато:凛々しく、雄々しく、(姿・足取りなどが)勇ましく
выверт(←вывертом:造格):(口)奇妙な身のこなし;奇行、気取った[わざとらしい]言葉使い
стрелять(←стреляли:過去形、複数形):射撃する、撃つ、射る;(鉄砲を)撃つような音を立てる(不完了体)
ихний(←ихнем:造格?):(俗)彼らの;(丁寧に)彼の
участок(←участке:前置格):(土地・面積の)一区画、用地、敷地
достраивать(←достраивали:過去形、複数形):что(建造物を)完成する(不完了体)
 →完了体:достроить
запоздалый(←запоздалые:複数形):遅れた、遅く来た、手遅れの
баррикада(←баррикады:複数形):(市街戦などの)バリケード、防柵

「小銃を彼らは抱えていられなかった、彼ら(小銃)は彼らを妨げただ恐怖を連れてくるだけだった;彼らの顔は暗く、不満気で、一方足を彼らは動かした素早く、正確に距離を保持し、キープしようと努力した蓄えを空間の自分の後ろに。彼らは義勇隊員を恐れていた。しかしイヴァン・イヴァノヴィッチは恐れておらず勇ましく進んだ、スマートな気取った身のこなしで。街には既に射撃が行われていたが、しかし彼らの区画は静かで、ただ二、三の場所に手遅れのバリケードが完成されていた。彼は新しいコートの中にいた」
 セミコロンの日本語に出来ない感がいつも気になる。どうしろと言うのだ、セミコロン。
小銃を彼らは抱えていられなかった。それは彼らの動きを邪魔し、ただ恐怖をもたらすだけであった。彼らの顔は暗く、不満そうであったが、彼らは小刻みに歩き、正確に距離を開け自分の後ろにも空隙を保つように努力した。彼らは義勇隊員たちを恐れていた。しかしイヴァン・イヴァノヴィッチは恐れておらず、軽く気取った身のこなしで勇ましく進んだ。街の中には既に銃撃音が響いていたが、彼らのいる場所は静かで、ただ二、三の場所にはもはや意味の無いバリケードがあった。彼は新しいコートを着ていた」。
 相変わらずのコートさん。そんなに愛しているならコートもちゃんとロシア語の活用させてあげれば良いのに。どうしてコートは不変化名詞なんだよ。東京すら活用させられていると言うのに。


Из-за угла показалась чья-то голова и скрылась; и вдруг сразу высыпала черная кучка народу, и из середины ее кто-то выстрелил прямо в Ивана Ивановича, – как будто вся черная кучка сказала ему: ах! Городовые убежали, Иван Иванович тоже повернулся, чтобы бежать, но сзади крикнули:

– Стой! Застрелим!

メモ
угол(←угла:生格):角、街角、交差点
чей-то(←чья-то:女性形):[不定](誰のか不明だが)誰かの
скрыться(←скрылась:過去形、女性形):隠れる;こっそり逃げる、身を隠す、行方をくらます(完了体)
 →不完了体:скрываться
высыпать(←высыпала:過去形、女性形):что(粉粒状のものを)こぼして出す・入れる、あける;что(口)(一切合切を)一気に喋る;(口)大量に現れる(完了体)
 →不完了体:высыпать
кучка:[指小]куча
куча:堆積、山;(口)(人・動物などの入り乱れた)群;(口)多量、多数
народ(←народу:生格):(単)人々、群集
середина(←середины:生格):中央(部)、中心(部)
выстрелить(←выстрелил:過去形、男性形):発射する、発砲する(完了体)
прямо:まっすぐに、一直線に
повернуться(←повернулся:過去形、男性形):向きを変える;方向転換する、転向する(完了体)
 → 不完了体:повёртываться, поворачиваться
застрелить(←застрелим:命令形?):(矢・弾丸で)射殺す、撃ち殺す(完了体)
 →不完了体:застреливать

「角から現れた誰かの頭が、隠れた;突然一気に現れた人々の黒い群れが、その中心部から誰かが発砲したまっすぐにイヴァン・イヴァノヴィッチへ、――あたかも全ての黒い群れが彼に言ったようだった;ああ! 巡査達は逃げ出したが、イヴァン・イヴァノヴィッチも向きを変えた、逃げるために、しかし後ろから叫ばれた:
『止まれ! 撃ち殺すぞ!』」
 ロシア語の語順は自由で良いなぁ。
角から誰かの頭が見えた。引っ込んだ。そして突如一斉に現れたのは、人々の黒い群れ。誰かがその中心からイヴァン・イヴァノヴィッチへと迷い無く発砲した。――ちぇっ! あたかも黒い群れの全てが彼に言ったかのようだった。巡査達は逃げ出した、イヴァン・イヴァノヴィッチも逃げるために向きを変えたが、しかし後ろから叫び声が聞こえた。
『止まれ! 撃つぞ!』


Ноги от страху онемели, затряслись, и он остановился. От всего себя он чувствовал одну только спину, неподвижную, серую, широкую, как глухой забор, мимо которого не пролетит ни одна пуля. И повернуть ее он не мог, так спиною и встретил дружинников, которые сзади несколькими парами рук схватили его за плечи, за руки и даже за шиворот. Повернули.

メモ
онеметь(←онемели:過去形、複数形):(驚き・喜びなどで)口がきけなくなる、あっけにとられる;麻痺する、感覚を失う、痺れる(完了体)
 →不完了体:онемевать, неметь
затрястись(←затряслись:過去形、複数形):[始発]трястись(完了体)
трястись:揺れる、揺れ動く;(全身が)震える、悪寒がする(不完了体)
остановиться(←остановился:過去形、男性形):(動きを)止める;(行動・言葉などが)止まる、言い淀む、絶句する(完了体)
 →不完了体:останавливаться
неподвижный(←неподвижную:女性形、対格):動かない、静止した,動作の鈍い
широкий(←широкую:女性形、対格):幅の広い;広々とした、広大な;大ぶりな、大仰な、動きの大きな
глухой:耳が聞こえない、耳の不自由な、耳の遠い;漠然とした、はっきりしない、秘められた;人里離れた;人気のない、ひっそりとした
забор:(ふつう木の)塀、柵、囲い;障害、障壁
мимо:止まらずに、立ち寄らずに;側を、近くを;кого-чего…に止まらないで、…を素通りして;…のそばを、…の近くを
пролететь(←пролетит:現在形、三人称、単数形):(近くを)飛び過ぎる、(どこかへ)飛んで行く;(ある距離を)飛ぶ、飛行する;(音などが)急速に広がる;(考えなどが)掠めて行く(完了体)
 →不完了体:пролетать
пуля:弾丸、銃弾
повернуть:кого-что…の向きを変える、反対方面へ向ける、回す(完了体)
 →不完了体: повёртывать, поворачивать
встретить(←встретил:過去形、男性形):кого-что出会う、出くわす、ぶつかる(完了体)
 →不完了体:встречать
пара(←парами:複数形、造格):一対、一組
схватить(←схватили;過去形、複数形):кого-что(素早く)掴む、取る;(逃げないように)捕まえる(完了体)
 →不完了体:схватывать
даже;(ふつう後に続く語句を強調して)…さえ、…すら、…も
шиворот:(口)えり、襟首
за шиворот:襟の中へ;首筋を掴んで

 完了体まみれでお送りする部分。淡々と物事が進んでしまった感が出て、良いですよね。
「脚が恐怖から麻痺し、震え始めた、そして彼は止まった。自分の全てから彼が感じたのは一つただ背中だった、動かない、灰色の、幅の広い、まるで耳の聞こえない囲い、一つの弾丸も通り抜けない、のように。彼は背中の向きを変えることは出来ず、というわけで背中で出会った義勇団員と、後ろからいくつかの腕の組みが捕まえた彼の肩を、腕を襟さえも。向きを変えた」
恐怖から脚が麻痺し、震え出し、そして彼は固まった。全身で彼が感じるのはただ一つ、背中だけだった。静止した灰色の幅広い背中を、まるで弾丸の一切飛び交わないひっそりとした障壁のように思った。彼は背中の向きを変えられず、この背中で義勇団員に出会うこととなった。後ろから複数の腕が彼を掴んだ、その肩、腕、首根っこさえ。向きを変えさせられた

 

– Как фамилия? – спросил один. В руке у него был револьвер-браунинг.

– Товарищи! – сказал Иван Иванович.

– Ну-ну! – грозно окрикнул кто-то.

– Граждане, – поправился Иван Иванович. Некоторые засмеялись, но тот суровый, что окрикнул, так же сурово и с отрицанием сказал:

– Дай ему по харе, чтобы не брехал. Дурак!

Иван Иванович закрыл глаза, но его не ударили, а снова спросили о фамилии.

– Авдеев, – солгал он.

メモ
браунинг:ブローニング(拳銃)
грозно:恐ろしく、脅すように
окрикнуть(←окрикнул:過去形、男性形):кого-что(注意を引くために)大声で呼び止める、呼びかける(完了体)
 →不完了体:окрикивать
суровый:(性格などが)厳しい、(表情などが)厳めしい
так же:同じように
сурово:厳しく、きつく、厳格に
отрицание(←отрицанием:造格):否認、否定、打ち消し
дать(←дай:命令形):(完了体)по чему(俗)ぶん殴る
харя(←харе:前置格):(粗)面、醜い顔;(俗)(罵)野郎、畜生
брехать(←брехал:過去形、男性形):(俗)(犬などが)吠える;嘘をつく、でたらめを言う(不完了体)
 →完了体:брехнуть
закрыть(←закрыл:過去形、男性形):覆い隠す、遮る、見えなくする;(蓋などを)閉じる、閉める(完了体)
 →不完了体:закрывать
снова:また、再び、さらに、もう一度
солгать(←солгал:過去形、男性形):嘘をつく(完了体)
 →不完了体:лгать

 拳銃の種類なんてサッパリワカリマセン。再び完了体が続く。
 ぽつんとあるтотにはчеловекが省略されていることが多いそうな。今回もчеловекを補えば意味が通る。

「『苗字は?』と一人が訊いた。彼の手には拳銃があった。
『同志よ!』 イヴァン・イヴァノビッチは言った。
『へいへい!』 誰かが脅すように呼びかけた。
『みんな!』 イヴァン・イヴァノビッチは言い直した。
 数人が笑い出したが、この厳めしい人は大声で呼び止めた、同じように厳しく否認を伴って言った:
『面をぶん殴るぞ、嘘をつけないように。この馬鹿!』
 イヴァン・イヴァノヴィッチは目を閉じた、が彼は殴られず、再び苗字を訊かれた。
『アブジェイエフ』 彼は嘘をついた」
 苗字ってのも何だかな。
『名前は?』と一人が訊いた。その手には拳銃があった。
『同志諸君!』 イヴァン・イヴァノヴィッチが言った。
『へいへい!』 誰かが脅すように呼びかけた。
『みなさん!』 イヴァン・イヴァノヴィッチは言い直した。
 数人が笑い出したが、厳めしい一人は呼び止め、同じく険しい否定を含んで言った。
『その汚い面をぶん殴ってやるぞ、もう嘘がつけないようにな。分かったか!』
 イヴァン・イヴァノビッチは目を閉じたものの、殴られることはなかった。再度、名を訊かれた。
『アブジェイコフ』 嘘をついた


Дружинники переглянулись: такого, с такой фамилией не знали, – ничем не был замечателен. Обыскали его, но ничего не нашли в новеньких, чистых карманах, – ни бумаг, ни писем; только в одном нашли гребешочек и зеркальце и без сожаления бросили их в снег. Иван Иванович приободрился и сам помогал вывертывать карманы, а вначале не мог.

メモ
переглянуться(←переглянулись:過去形、複数形):(口)見交わす、視線を交わす、互いに目配せする(完了体)(一回)
 →不完了体:переглядываться
замечателеный(←замечателен:短尾形、男性形):優れた、非凡な、卓越した;(長尾)注目すべき、注目に価する
обыскать(←обыскали:過去形、複数形):捜索する、検査する;隅々まで探す、残らず探す(完了体)
 →不完了体:обыскивать
найти(←нашли:過去形、複数形):кого-что(探して)見付ける、探し出す(完了体)
 →不完了体:находить
новенький(←новеньких:複数形、前置格):[指小・表愛]новый:新しい
чистый(←чистых:複数形、前置格):汚れていない、綺麗な、清潔な、きちんとした、さっぱりした
бумага(←бумаг:複数形、性格):紙
гребешочек:[指小・表愛]гребень
гребень:櫛
зеркальце:[指小]
зеркало:鏡
сожаление(←сожаления:生格):(失われたものを)惜しむ気持ち、哀惜の念;(行為などへの)後悔の悔恨、惜しむ気持ち
бросить(←бросили:過去形、複数形):кого-что, чем投げる、ほうる、投げつける(完了体)
 →不完了体:бросать
снег:雪、積雪、雪原
приободриться(←приободрился:過去形、男性形):(少し)元気付く、元気が出る(完了体)
 →不完了体:приободряться
вывёртывать:(不完了体)
 →不完了体:выверчивать
 →完了体:вывертевать(俗)=вывернуть
вывернуть:回して抜き取る、ねじって外す(完了体)
 → 不完了体:вывёртывать、выверчивать
вначале:初めは、最初の内は;まず、一番先に

 最初の文章のтакогоの後ろにもчеловекが隠れているらしい。
「義勇団員たちは互いに目配せを交わした:この人たちは、この苗字について知らなかった、――(イヴァン・イヴァノヴィッチは)特別に卓越していなかった。彼を捜査したが、何も見付からなかった新しい綺麗なポケットの中に――紙も、手紙もなく;ただそこから見付けたのは小櫛と小鏡で惜しむ気持ちなしでそれらを雪の上に投げた。イヴァン・イヴァノヴィッチは元気が出て自分で手助けしたポケットを回すのを、しかし最初の内は無理だった」
 ポケットに櫛と鏡があるとか、オシャレさんやなイヴァン・イヴァノヴィッチさん。
義勇団員たちは互いに視線を交わした。この苗字について知らなかった。――何も注目すべきものはなかった。彼を調べたが、新しい清潔なポケットの中には何も見付からなかった。――紙も手紙もなかった。ただ見付かったのは小櫛と小鏡で、惜しむことなくそれらは雪の上に捨てられた。イヴァン・イヴァノヴィッチは少し元気が出て、ポケットを漁るのを自分から手助けしたが、最初の内は出来なかった


– А револьвер-то? – сказал кто-то. – Забыли?

– Давай револьвер. Живее!

メモ
забыть(←забыли:過去形、複数形):忘れる(完了体)
 →不完了体:забывать

「『拳銃は?』 誰かが言った。『忘れたのか?』
『拳銃をよこせ。とっととしろ!』」
 -то付いてるから拳銃を強調したいけど、うーん。
『拳銃はどこだ?』 誰かが言った。『忘れたのか?』
『拳銃をよこせ。とっととしろ!』




 文章が主体になっているからか、この作品はソログープ作品に顕著な「単語同士が複雑に絡み合っててコレどうしよう……」な事態はなかった。
 アンドレーエフの作品は邦訳でいくつか読んだだけだけど、淡々と進むイメージ。
 

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