黒田龍之助『寝るまえ5分の外国語 語学書書評集』



 連続して黒田先生の本をご紹介。今回も予想よりも内容は軽かったけれど、予想の範囲内だったのでイラッとせずに済んだ。いやまぁ前回のも私が勝手に期待しただけなのだが。

 スラブ語圏が専攻の黒田先生だが、本書で取り上げるのは専門のスラブ語圏だけではなく全言語である。
 白水社(この本の出版元でもある)の書籍をメインとして、日本語から様々な言語へと読者を誘う語学書を対象としての書評集である。
 とは言え、それぞれの難易度や使いやすさを細々と比較検討するような硬いものではなく、未知なる言語を学ぶ楽しさに主眼を置いた、ゆるく伸びやかなもの。
 なかなか覗くことのない色んな言語の語学書に触れてみたい方にはオススメ。真面目に最高の語学書を探し求めている方のご希望には、たぶん添えない。と言えどもロシア語関連はかなり充実しているが。

 以下は本書で紹介された語学書の中から、私が気になったもののメモ。




 NHKラジオのロシア語テキストを本屋で探すと、大抵は置いていないか、置いていても隅っこである。そして隅っこに置かれている場合、いつも一緒にアラビア語テキストがいる。
 そんな訳で勝手に親近感を抱いているアラビア語から紹介されていた一冊が上の『アラビア文字を書いてみよう』。
 クネクネしてどこまでが一文字なのかもよく分からないが優美なアラビア語、それが書けたらちょっと素敵じゃない?という思いを叶えてくれる。何でもアラビア語を書くための筆の作り方から始まると言うのだから本格派だ。
 と思ったがさりげなく絶版らしい。絶版の本ばかりを集めた章ではなく、在庫がある章に載っていたのに。残念。



 フラ語、ドイ語、チャイ語、ハングル、ロシア語。私の大学生時代、第二外国語はそれぞれこう呼ばれていた。ハングルもストレートだが、そのまんま呼ばれるロシア語の人気の無さ凄い。
 ちなみに私はフラ語、つまりはフランス語選択で「やっべ、これは単位落としたかも」と震えていたっけな……。
 そんなフランス語から、茶目っ気のある本を一冊。
 これを読めば吉野家でつゆだく牛丼をフランス語で注文できるようになります。使う機会あるのかソレ。


 見た目はロシア語っぽいけれど、さりげなく違うモンゴル語。
 その差異をちょっと学んでみるのも楽しいかもしれない。


 古代教会スラブ語って日本語で学べるんだ……。凄いな。
 なんて感慨を抱いたのが、この一冊。作者はこの本の出版記念パーティーで貰ったそうな。
 バブルってスゴイナーな感想になる80年代の出版事情がこの手の本の出現を許したのだろうか。個人的に「よくぞこんなニッチな本を出したな!」が生まれているのは80年代と戦後暫くたってからの時期な気がしている。
 なお、現在は絶版。




 勉強しているとたまに思う。「何のためにやってるんだっけ?」
 そんな時に必要なのは、言葉の力を信じさせてくれる一冊。という訳でそんな一冊らしいのが『新「ことば」の課外授業』。
 「新」があるってことはその前もある、って訳でそれが『「ことば」の課外授業』。
 「新」が付かない『「ことば」の課外授業』の方は絶版のようだ。
 



 次は有名な一冊。たぶん私も高校生の時に読んだ気がする。もう昔のことすぎて記憶が曖昧だが。そしてハリーポッターに挑んでアッサリ挫折したような気が。
 有名なのに絶版なのね……。



 以下は、ロシア語の語学書。



 作者がロシア語の勉強を始め、そして教師として教える際にも使った1冊がこの『標準ロシア語入門』。
 例文がしっかりとしていて、文体が統一されており更に幅広く使える例文がたくさん収録されていること。これが語学書の理想であり、この『標準ロシア語入門』ではその理想が実現されていると作者は大絶賛である。



 黒田先生が愛用している辞書、それがこのパスポートだそうな。日本一引いてるんじゃないかとの自負まであるとのこと。と言っても、単語の意味が知りたくて引いている訳ではない。
 初級の辞書は最高の学習書である、とはよく聞くが、ロシア語でその「初級の辞書兼最高の学習書」の地位にあるのが、この『パスポート初級露和辞典』とのこと。
 「この辞書が使いこなせれば、ロシア語の初級はおろか中級もすでに卒業間近。反対にこのレベルを疎かにすれば、一生身につかない(p.169)」とはなかなかに辛辣なお言葉。
 ……ちょっとパスポート探してくる。最近見かけてないわ。


 以下は、全て絶版。
 



ロシア語の基礎復習 (1966年)
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 本書で取り上げられているのは、『ロシヤ語の基礎復習』の方。Amazon他では『ロシア語の基礎復習』となっている。
 この作者の小沢政雄さんから、黒田先生が学生時代にロシア語を教わったのだそうな。
 そんな教え子である黒田先生が言うに、全体的に古風だが「語順の話」はここまで丁寧な解説は見たことがないという程に素晴らしいとのこと。
 そんなことを言われると欲しくなるが、あまり出回っていない上にお値段がえらいことに。
 図書館で探すか……。
 『ロシア語の入門』も同じ作者による。こちらは職人仕事の緻密な構成とのことなので、こっちも探してみよう。
 


 中身はザ・ソ連なようだが、しかし語学書の価値は時代的な背景とは切り離して考えるべきだとは黒田先生の弁。
 これほど詳細に纏められたロシア語構文論は類を見ないとまで絶賛されている。
 今回買ってみるかと検索して分かったが、こちらの著者は除村吉太郎であった。さらっと大物出てくるなよ、鼻水出たわ。
 黒田先生に訳が硬いと言われてもいるが、まぁこの作者ならさもあらん。
 
 例によって市場での流通は数少ないが、作者故にか国会図書館がデジタルデータ化している。が、著作権の問題で公開はされていない。
 国会図書館そのものか、大阪府立図書館みたいに国会図書館へのアクセス権を持つ端末を置いている図書館まで行けば読めます。市によっては市立中央図書館クラスでも契約していたりするので、こちらのリンク先から探してみてね。
  ちなみに私の市の図書館は参加していなかった。隣の市の図書館は参加しているが、市民じゃないから駄目なのかな……どうなんだろう。府立図書館遠いってばよ。


 ついでに検索したところ、一つ前の『ロシア語の基礎復習』(ロシヤではなくロシア)も同じ扱いとなっていた。
 『ロシア語の入門』の方はデジタル化されていないようだ。この扱いの差は何故。




標準ロシヤ会話 (1968年)
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 上は改訂版、下は旧版。旧版の方がサイズは小さいがページ数は多く、改訂版ではカットされてしまった例文も複数あるとのこと。
 何故カットされてしまったのかと惜しい例文もあれば、使う機会がないどころかその機会すらよく分からない例文もあったりするそうで、比べてみると楽しそう。


 最後は『必携 ロシア語変化総まとめ』。
 基本的には変化を表で示し、その他の細かい知識については細かい注釈を付けるという気が遠くなりそうな一冊。ロシア語を専攻する大学院生ならこれくらい知っていて欲しいとは、黒田先生のお言葉。

 ちなみにこの本、実は既に私も持っていたりする。
 帯の「この一冊で、もうロシア語変化は怖くない」の文言を見た瞬間に注文ボタンを押していました。この帯、ロシア語学習者の心を打ち抜きすぎだと思うの。
 とは言え、買ってみたものの実は全く使えていなかったりする。ページ数が内側に記載されていて、目次で該当ページ数が分かっても引きにくいんだもの。なんで内側に振ったんだよ。
 そんなこんなで慣れた『NHK新ロシア語入門』の巻末の変化表ばかりを愛用して来たが、注釈が素晴らしいと言われると、もう一度ちゃんと使ってみようかなって気になって参りました。
 折角買ったしね。





 そんなタイミングで本屋で『標準ロシア語入門』を見かけたので、買ってしまった。
 『必携ロシア語変化総まとめ』と同じデザインだけどサイズが違うので、何だか変な感じ。


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2 件のコメント:

  1. Тадасиと申します。
    僕は黒田先生の著書はすべて持っていて、モチロンこの本も買いました。紹介されている本の中で「標準ロシア語入門」と「バスポート初級露和辞典」を持っています。僕もこの辞書をよくひきます。でも、まだこの辞書の素晴らしさが分かるには至っていません。
    黒田先生は書いてヨシ、喋ってヨシ!
    そこがこの先生の好きなところです。

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  2. Тадасиさん、こんばんは。コメントありがとうございます。
    パスポートは私ももうちょっと使おうかなと思いました。
    今後もちまちまと黒田先生の本を読んで行きたいです。

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