試訳の裏側:ソログープ「楽しき夢 2/3」

2014年06月07日更新

 「白樺」ほど心に響く文章はないかもしれない……、な「楽しき夢」2回目。


 出典は以下: «Собрание сочинений в восьми томах Том 3. Слаще яда»収録、«Книга стремлений»項目内«Сон утешающий»  (БИБЛИОТЕКА РУССКОЙ КЛАССИКИサイト内、Федор Кузьмич Сологубのページより) 




 今回も、
  『パスポート初級露和辞典』(白水社)
  『岩波ロシア語辞典』(岩波書店)
  『NHK新ロシア語入門』(日本放送出版協会) にお世話になりました。


 加えて既存の日本語訳

  「樂しき夢」 馬場哲哉・訳(「奇蹟 第二巻第一號」収録)も参考にさせていただきました。


 例によってツッコミ等は歓迎しております。
 以下は、いつもの七転八倒な和訳への道。




注:色つき文字部分は、私(春色)の独り言。
太字は原文、もしくは最終的な日本語訳


Была Великая Суббота. Сережа заснул. И увидел сон, странный, но утешительный.

メモ
великий(←великая:女性形):[正教](一定の日または行事に冠して)大…
заснуть(←заснул:過去形、男性形):寝入る、眠り込む(完了体)
 →засыпать(不完了体)
странный:不思議な、奇妙な
утешительный:なぐさめになる、喜ばす

 大土曜日って何だろな。受難週間のハイライトは日曜日らしいから、その前日の土曜日? だとすると、日数が合わない気もするぞ。
 もう分からないので聖土曜日とかで誤魔化そう。
 聖土曜日だった。セリョージャは眠っていた。そして夢を見た、奇妙だけれども喜ばしい夢を
 ロシア語の順番で訳すと倒置法まみれになるな。



Был знойный день. Перед Сережиными глазами простерлась долина, выжженная ярким блистанием солнца. Сережа сидел на пороге бедной хаты. Широкие листья двух пальм бросали сквозную тень на его загорелые ноги и на белую ткань грубой его одежды.

メモ
знойный:火のような、非常に暑い
простереться(←простерлась:過去形、女性形):(枝が)張る、広がる、達する(完了体)
 → простираться(不完了体)
долина:谷間、沢
выжженный(←выжженная:女性形): 受動形容分詞過去
 →выжить:(重病や重症に耐えて)生き延びる、生き残る(完了体)
  →выживать(不完了体)
 →выжечь:(火・炎などで)焼き払う、焼き尽くす(完了体) 
  →выжигать(不完了体)
яркий(←ярким:造格):明るい、光の強い
блистание(←блистанием:造格):(強い)輝き、ひらめき、きらめき
солнце(←солнца:生格):太陽の
сидеть(←сидел:過去形、男性形):座っている(不完了体)
порог(←пороге:前置格): 敷居
бедный(←бедной:女性形、生格?):貧乏な、貧しい
хата(←хаты:生格):百姓家、農家
широкий(←широкие:複数形):幅の広い、ゆったりした、広々とした
лист(←листья:複数形):(植物の)葉
пальма(←пальм:複数形、生格):シュロ、ヤシ
бросать(←бросали:過去形、複数形): 投げる、ほうる(不完了体)
 →бросить(完了体)
сквозной(←сквозную:女性形、対格): (片方から他方へ)通り抜けの、貫通した
тень:影
загорелый(←загорелые:複数形、対格): 日焼けした
нога(←ноги:複数形、対格):足、脚
белый(←белую:女性形、対格): 白い、白色の
ткань:織物、布、生地
грубый(←грубой:女性形、生格?):仕上げが雑な、優美さを欠く、荒削りの
одежда(←одежды:生格):衣類

 「火のような昼だった。セリョージャの目の前には谷が広がっていた、太陽の明るい輝きに焼き払われた。セリョージャは貧しい農家の敷居の上に座っていた。幅の広い二枚のシュロの葉が投げていた貫通した影を、彼の日焼けした脚と白い布仕上げが雑な彼の衣類に」
 ソログープさんって「火のような」って表現好きね。
 火のような昼であった。セリョージャの目の前には、太陽の赤い輝きに焼き払われた谷間が広がっていた。セリョージャは貧しい農家の敷居の上に座っていた。彼の日焼けした脚と粗い白い服の布の上に、幅の広い二枚のシュロの葉が影を投げかけていた


Сережа чувствовал себя маленьким, как десять лет тому назад, и очень радостным. Маленькое тело, едва прикрытое бедною тканью, было легким, как тело ангела, рожденного на земле. 

メモ
чувствовать(←чувствовал:過去形、男性形):(生理的・心理的に)感する、覚える、理解する、悟る(不完了体)
 →почувствовать(完了体)
радостный(←радостным:造格): うれしい、喜ばしい、喜びに満ちた
маленький(←маленькое:中性形):小さい、幼い、年少の
едва:…したばかりで、わずかに、少し、辛うじて、やっと、どうにかこうにか
прикрытый(←прикрытое:中性形):受動形容分詞過去
 →прикрыть:(覆って・被せて)保護する、覆う(完了体)
  →прикрывать(不完了体)
бедный(←бедною:女性形、造格?):貧乏な、貧しい、不幸な、哀れな
ткань(←тканью:造格):織物、布、生地
легкий(←легким:造格):軽い、薄手の
ангел(←ангела:生格):天使
рожденный(←рожденного:生格):受動形容分詞過去
 →рождать:生む、産む、生じさせる(不完了体)
  →родить(完了体)
земл(←земле:前置格):地球、地上

 「セリョージャは自身を少年のように感じていた、まるで10歳ほど前に戻ったかのように、そして非常に喜ばしく。貧しい布で辛うじて覆われていた小さな身体は、軽く、まるで地上に産まれた天使の身体のようであった」
 セリョージャっていくつだっけ、と読み返したら15歳だったわ。充分、少年の領域じゃんね。
  セリョージャは己を少年のように、まるで10歳も若返ったかのように感じ、とても嬉しく思っていた。貧しい布でかろうじて覆われた小さな身体は軽く、まるで地上に産み落とされた天使のようであった



Все веселило, — земля, такая плотная и горячая под голыми ногами, — воздух, такой знойный, но легкий, — небо, такое синее, высокое, но и такое близкое, словно оно начиналось здесь, на земле, — быстрые полеты птиц, — визги ребятишек около соседних хат, — гортанный, совсем неожиданно новый голос матери у колодца, где и другие стояли женщины, в белых одеждах, смуглые, босые, весело-разговорчивые, как и его мать.

メモ
веселить(←веселило:過去形、中性形):楽しませる、陽気にする、喜ばせる(不完了体)
 →развеселить(完了体)
земля:地球、地上、この世、土、土地
плотный(←плотная:女性形):密度の高い、緊密な、濃密な、厚手の、丈夫な
горячий(←горячая:女性形):暑い、高熱高温の、熱心な、情熱的な
голый(←голыми:複数形、造格):裸の
воздух:空気、大気
легкий:軽い、軽やかな
небо:空
высокий(←высокое:中性形): 高い
близкий(←близкое:中性形):近い
словно:…のように、あたかも
начинаться(←начиналось:過去形、中性形):始まる、到来する(不完了体)
 →начаться(完了体)
быстрый(←быстрые:複数形):速い、敏捷な
полет(←полеты:複数形):飛翔、飛行
птица(←птиц:複数形、生格):鳥
визг(←визги:複数形):金切り声、高く鋭い音
ребятишки(←ребятишек:生格):[表愛](俗)
 →ребята(複数形):(口)若者達、(若い)仲間たち
около:(廃)周りに、周囲に
соседний(←соседних:複数、生格):隣にある、隣接する
гортанный:喉の、(声などが)低くてよく響く
совсем:まったく、すっかり
неожиданно:思いがけず、突然に
колодц(←колодца:生格):井戸
женщина(←женщины:複数形):女性、婦人
одежда(←одеждах:複数形、前置格):衣類、服
смуглый(←смуглые:複数形):(顔・皮膚などが)浅黒い
весёлый(←весело:短尾形、中性形):明るい、楽しい、愉快な、陽気な
разговорчивый(←разговорчивые:複数形):話し好きな、おしゃべりの

 長い上に詩的すぎて、もうどうして良いか分からない。が、頑張って見よう。
 「全てが楽しませた――土、裸の足の下にあるこの濃密で情熱的な、――大気、この火のようでありながら、しかし軽やかな、――空、この青くて高く、しかしまるで土の上のここから始まっているかのように近い、――鳥の敏捷なる飛行――金切り声、隣接する農家の周りの若者達の――低くよく響く、全く突然に新たな声がした、井戸の傍の母の声だった、そこには他にも白い服の女性たちがいた、浅黒く裸足で、陽気な話し好きの、彼の母親と同じく
 金切り声くらいから現実に帰りつつあるので、そこらあたりで一旦文章を切ってくれれば良かったのに。
 全てが楽しませた。土、裸足が触れる濃密で情熱的な。大気、この火のようでありながらも軽やかな。空、この青くて高いがすぐそこから始まっているかのように近い。鳥の敏捷なる飛行。隣接する農家の若者達の金切り声。低く良く響く声、――あまりにも突然に、新たな声がした。母の声であった。その井戸の傍には、他にも女性達がいた。白い服を着、浅黒い皮膚と裸の足を持った陽気な話し好きの、彼の母親とよく似た女性達が



Вот она возвращается домой. На её плече длинный, узкогорлый кувшин. Высоко поднялась, придерживая его, смуглая, обнаженная рука. Яркими зорями пылают её щеки; ярким пурпуром приоткрытые улыбаются уста, на смуглом лице её черные под широкою тенью длинных ресниц сияют и радуются на ребёнка глаза. Гордая ликует мать о своем сыне, — и он тянется к ней радостно и смеется.

メモ
возвращаться(←возвращается:現在形、三人称単数形):帰る、戻る(不完了体)
 →возвратиться(完了体)
плечо(←плече:前置格):肩
длинный:長い
узкогорлый:(瓶などが)細首の
кувшин:(取っ手と口のついた細首の)水差し
высоко:高く
подняться(←поднялась:過去形、女性形):上方に移動する、昇る(完了体)
 →подниматься(不完了体)
придерживая:副分詞
 →придерживать:(落ちないように)軽く押さえる(不完了体)
  →придержать(完了体)
зоря(←зорями:複数形、造格):(廃)(民)(日の出・日没後の)空焼け、空焼け時
пылать(←пылают:現在形、三人称複数形):あかあかと燃える、きらきらと輝く(不完了体)
щека(←щеки:生格):ほほ
пурпур(←пурпуром:造格):深紅色、鮮紅色
приоткрытый(←приоткрытые:複数形):受動形容分詞過去
 →приоткрыть:少し開ける、少し開く(完了体)
  →приоткрывать(不完了体)
улыбаться(←улыбаются:現在形、三人称複数形):微笑する、微笑む(不完了体)
 →улыбнуться(完了体)
уста(複数形):(廃)(詩)口、唇
черный(←черные:複数形):黒色の、黒い
широкий(←широкою:女性形、造格?):幅の広い
длинный(←длинных:複数形、生格?):長い
ресница(←ресниц:複数、生格):まつげ
сиять(←сияют:現在形、三人称複数形):(発光体が)光る、輝く(不完了体)
радоваться(←радуются:現在形、三人称複数形):(廃)…を喜ぶ、…をうれしがる(不完了体)
 →обрадоваться(完了体)
ребёнок(←ребёнка:対格):赤ん坊、幼児、子供
гордый(←гордая:女性形):誇りを持った、誇り高い
ликовать(←ликует:現在形、三人称単数形):有頂天になって喜ぶ(不完了体)
тянуться(←тянется:現在形、三人称単数形):取ろうとして手を伸ばす(不完了体)
радостно:喜んで、嬉しそうに

 「そこで彼女は家へと戻った。彼女の肩の上には長い細首の水差しがあった。裸の浅黒い腕がそれが落ちないように軽く押さえるために、高く上方へと移動していた。眩しい空焼けによって彼女の頬はあかあかと燃えていた。つまり、明るい鮮紅色によって少し開かれた唇は微笑し、浅黒い彼女の顔の中の、長い睫の幅の広い影の下の黒さは輝き、子供の瞳を喜んだ。誇り高い母親は自分の子供を有頂天になって喜び、―一方の彼は喜ばしげに彼女に手を伸ばして笑った」。
 なるほど分からん、って次元じゃねーぞ。
 現在形三人称複数形になっている動詞の主語が全く意味分からん。敢えて主語をぼかした形、けれども主語が人間であることをほのめかしたい時には動詞を三人称複数形にするのは知ってるけど、今回の主語は母親で確定じゃないの? ぼかす意味とは一体。
 それに何よりчерныеが形容しているモノがどれか分からない。見つからないんだけど、なんだコレ。敢えて無いのかこれも?
 もうそういうことにしておこう。→глазаらしい。
 そこで彼女は家へと戻った。彼女の肩の上には、長い細首の水差しがあった。それを押さえるために、裸の浅黒い腕が高く掲げられていた。眩しい夕焼けにより、彼女の頬は赤々と燃えていた。明るい鮮紅色によって少し開かれた唇は微笑し、浅黒い彼女の顔の上、長い睫の幅広い影の下で輝き、子供の黒い眼差しを喜んだ。誇り高い母親は自身の子に対して大層喜び、一方の子供も嬉しげに彼女に手を伸ばして笑うのだった



В его руке игрушка, сделанная им самим из красной глины, размоченной в ручье, — птица, глиняная, но совсем как живая.

メモ
игрушка:おもちゃ、玩具
сделанный(←сделанная:女性形):受動形容分詞過去
 →сделать:作る、製造する、創作する(完了体)
  →делать(不完了体)
красный(←красной:女性形、生格):赤い、赤色の
глина(←глины:生格):粘土
размоченный(←размоченной:女性形、生格):受動形容分詞過去
 →размочить:(水に浸して)柔らかくする(完了体)
  →размачивать(不完了体)
ручей(←ручье:前置格):小川
глиняный(←глиняная:女性形):土製の、素焼きの
живой(←живая:女性形):生きている、生命のある
совсем:すっかり、まったく

 「彼の手の中には玩具があった、彼自身によって小川に浸して柔らかくした赤い土から作られた――鳥、土製だがしかし、まるで生きているかのような」
 彼の手の中には玩具があった。それは彼が小川に浸して柔らかくした赤い土から作った鳥だった。土製のそれは、まるで生きているかのようだった



Дивный маленький ваятель лепил ее из косной глины, — и пальцы его были живы и быстры, и глина хотела ожить, и дивно изваянное из глины птичье тело трепетало в жарких детских пальчиках напряжением воли, творящей жизнь.

メモ
дивный:(廃)不思議な、驚くべき、未曾有の;(口)絶妙な、見事な、素晴らしい
ваятель:(雅)彫刻家
лепить(←лепил:過去形、男性形):(粘土・石膏などで)像を作る、象る、こねて作り上げる(不完了体)
косный(←косной:女性形、生格):沈滞した、頭の古い
палец(←пальцы:複数形):指
быстрый(←быстры:短尾形、複数形):速い、迅速な、敏捷な
хотеть(←хотела:過去形、女性形):(口)今にも…しそうだ(不完了体)
ожить:(死者が)蘇る、蘇生する(完了体)
 →оживать(不完了体)
дивно:見事に、素晴らしく
изваянный(←изваянное:中性形):受動形容分詞過去
 →изваять:(雅)彫刻する、塑造する、鋳造する(完了体)
  →ваять(不完了体)
птичий(←птичье:中性形):鳥の、鳥のような
трепетать(←трепетало:過去形、中性形):(小刻みに)震える、揺れる、体をぴくぴく動かす(不完了体)
жаркий(←жарких:複数形、前置格):熱い、灼熱の、暑い
детский(←детских:複数形、前置格):子供の、児童の、子の
пальчик(←пальчиках:複数形、前置格):[指小形・表愛形]
 →палец
напряжение(←напряжением:造格):張り詰めること、緊張させること
воля(←воли:単数形、生格);意思、勝手、思いのまま
творящий(←творящей:女性形、生格?):能動形容分詞現在
 →творить:創造する、創作する、生み出す(不完了体)
  →сотворить(完了体)

 「驚くべき小さな彫刻家は沈滞した粘土からそれを作り上げた――そして彼の指は生命力があり敏捷であった、そして粘土は蘇りたいと欲していた、粘土から見事に塑造された鳥の体はぴくぴくと動いていた、熱い子供の指の中で、張り詰めた意思によって、命を生み出そうという」
 хотетьに「今にも…しそうだ」という意味があることを見つけたものの、ここは普通に「欲する」で良い気がする。
 驚くべき小さな芸術家は、沈滞した粘土からそれを作り上げた。彼の指には生命力があり敏捷であった、そして粘土は蘇りたいと望んでいた。粘土から見事に練り上げられた鳥の体は、ぴくぴくと動いていた。熱い子供の指の中で、命を生み出そうという張り詰めた意思によって



Мать проходила мимо, торопясь освободиться от своей ноши. Улыбаясь, не сгибая стройной шеи, не склоняя головы, она косила на сына смеющийся радостно взор знойно-черных глаз.

メモ
мимо:側を、近くを;止まらずに
торопясь:副分詞
 →торопиться:急ぐ、急いでやる(不完了体)
  →поторопиться(完了体)
освободиться:自由になる、(束縛・拘束から)抜け出る(完了体)
 →освобождаться(不完了体)
ноша(←ноши:生格):重荷、負担
улыбаясь:副分詞
 →улыбаться:微笑する、微笑む(不完了体)
  →улыбнуться(完了体)
сгибая:副分詞
 →сгибать:曲げる、撓める(不完了体)
  →согнуть(完了体)
стройный(←стройной:女性形、生格?):格好の良い、均整のとれた、すらりとした
шея(←шеи:生格):首
склоняя:副分詞
 →склонять:下へ向ける、下へ曲げる、傾ける、俯ける(不完了体)
  →склонить(完了体)
голова(←головы:生格):頭、首
косить(←косила:過去形、女性形):(視線・目を)横へ向ける
смеющийся:能動形容分詞現在
 →смеяться:笑う、笑うような表情を浮かべる(不完了体)
взор:視線、眼差し、目つき

 副分詞が大量発生中。
 「母親が側を通った、自身の荷物から逃れようと急ぎながら。微笑みながら、すらりとした首は曲げず、頭を俯けることなく、彼女は嬉しげに情熱的な黒い瞳で笑う息子に視線を向けた」
 息子と母の距離関係が分からないな。息子が手を伸ばすような近距離だったんじゃなかったん?
 まぁいいけど。
 自身の荷物から逃れようと急ぐ母親が、側を通った。微笑み、すらりとした首を伸ばし、頭を上げた彼女は、情熱的な黒い瞳を楽しげに笑う息子へと向けた



Мальчик протянул левую руку к матери, схватил кончик её загорелой стопы, и закричал:— Смотри, мама!

メモ
протянуть(←протянул:過去形、男性形):(縄などを)張る、延ばす(完了体)
 →протягивать(不完了体)
левый(←левую:女性形、対格):左側の、左の
схватить(←схватил:過去形、男性形):(素早く)つかむ、取る(完了体)
кончик:先端
стопа(←стопы:生格):足
закричать(←закричал:過去形、男性形):叫び声で言う(完了体)

 「少年は左手を母親へと伸ばし、日に焼けた足の先端を捕まえ、そして叫んだ。『見て、ママ!』」
 足の先端……、なんかもやっとする日本語だな。
 少年は左手で母親の日に焼けた足を捕まえ、そして叫んだ。『見て、ママ!』
 もやっとしたので、綺麗さっぱり殺戮しておいた。



Слабо удивился было чуждому звуку своих слов на ином наречии, но сейчас же забыл, что говорит на чужом языке и перестал дивиться тому, что понимает эти гортанные слова.

メモ
слабо:(俗)…できない、…する能力がない
слабо:弱く、弱々しく、かすかに
удивиться(←удивился:過去形、男性形):驚く、びっくりする、不思議に思う(完了体)
 →удивляться(不完了体)
было:(主として完了体動詞過去形に添えて、その動詞の意味する行為がいったん開始されたか開始されかけたが、何らかの理由で中断されたり、所期の成果を収めなかったことを示す)
чуждый(←чуждому:与格):(廃)他人の、異国の、異質な、無関係な
звук(←звуку:与格):音、音響
слово(←слов:複数形、生格):単語、語
иной(←ином:前置格):他の、別の
наречие(←наречии:前置格):方言、(廃)言語
забыть(←забыл:過去形、男性形):忘れる(完了体)
 →забывать(不完了体)
чужой(←чужом:前置格):他人の、自分のでない
перестать(←перестал:過去形、男性形):…するのを止める(完了体)
 →переставать(不完了体)
дивиться:(廃)…に驚く(不完了体)
понимать(←понимает:現在形、三人称単数形):見做す、考える、理解する(不完了体)
 →понять(完了体)
гортанный(←гортанные:複数形、対格):(声などが)低くてよく響く、喉声の

 「別の言語として自分の語が他人の音であることに弱々しく驚いた、しかし自分のではない言語で話していることをすっかり忘れ、それに驚くのを止めた、その低くてよく響く言葉を理解できることに」
 夢の中だと自分が何語を話しているが気にならず、それが理解できることにも、明らかに自分と違う声で話していることにも不思議と気がつかないことってあるよね。たぶんそういう話だよね。
 自分の言葉が異なる言語の他人の音になっていることに、彼は微かに驚いた。けれども自分のではない言葉で話していることなどすっかり忘れ、その低くてよく響く言葉を理解できることに驚くのを止めた



Мать засмеялась и остановилась. Спросила:— Ну что, сынок?

メモ
засмеяться(←засмеялась:過去形、女性形):[始発]
 →смеяться:笑う(不完了体)
остановиться(←остановилась:過去形、女性形):動きが止まる(完了体)
 →останавливаться(不完了体)
спросить(←спросила:過去形、女性形):問う、問い合わせる(完了体)
 →спрашивать(不完了体)
сынок:(年配者からの若者・少年への呼びかけとして):坊や、若いの、お前

 「母親は笑い始め、そして笑い止めた。問うた。『ねぇ、坊や?』」
 「母親は笑うと、問うた。『ねぇ、坊や』」



Мальчик поднял руку с глиняною птицею, и весело говорил:— Вот, мама, птица, я сам ее сделал, и она поет, как живая.

メモ
поднять(←поднял:過去形、男性形):拾い上げる、取り上げる、持ち上げる
весело:陽気だ、明るい
сделать(←сделал:過去形、男性形):作る、製造する(完了体)
 →делать(不完了体)
поет(←поет:現在形、三人称単数形):歌う、(鳥が)さえずる(不完了体)

 「少年は、土製の鳥と共に腕を持ち上げ、陽気に言った。『ほら、ママ、鳥、僕がこれを作ったんだ、彼女はまるで生きているかのように歌うよ』」
 少年は土製の鳥を手で持ち上げると、明るく言った。『ほらママ、鳥だよ。僕が作ったんだ。まるで生きているかのように歌うよ』



Он приложил к губам хвост глиняной птицы, где было отверстие для свистульки, дунул в него, — и из глиняного клюва птички вырвался легкий свист. Ослабляя и усиливая дыхание, мальчик дул в свою глиняную свистульку, рождая в ней переливные, звонкие звуки. Мать смеялась и говорила:

メモ
приложить(←приложил:過去形、男性形):ぴたりと押し当てる、置く、添える(完了体)
губа(←губам:複数形、与格):唇
хвост:(動物・鳥・魚の)尾、尻尾
отверстие:割れ目、裂け目、口、孔
свистулька(←свистульки:生格):(口)小笛、おもちゃの笛
дунуть(←дунул:過去形、男性形):(息を)吹く、吹きかける(完了体・一回)
 →дуть(不完了体)
клюв(←клюва:生格):(鳥などの)嘴
вырваться(←вырвался:過去形、男性形):噴出する、ほとばしる(完了体)
 →вырываться(不完了体)
свист:(口笛などの)笛の音
ослабляя:副分詞
 →ослаблять:弱める、衰えさせる、緩和する(不完了体)
  →ослабить(完了体)
усиливая:副分詞
 →усиливать:(行為を)強化する、強める(不完了体)
  →усилить(完了体)
дыхание:呼吸、息
рождая:副分詞
 →рождать:(ある現象を)生じさせる、起こす、生む(不完了体)
переливный(←переливные:複数形、対格):(口)переливчатый
 →переливчатый:(音が)変化に富む、軽快な
звонкий(←звонкие:複数形、対格):響きわたる、よく響く

 「彼は唇を土製の鳥の尻尾に押し当てた、そこは小笛のための孔だった、それを吹いた――土の鳥の嘴から軽い音が迸った。息を弱めながら強めながら、少年は自分の土製の小笛を吹き、その中から生じさせた、変化に富み、よく響く音を。母は笑い、言った」
 彼は唇を土製の鳥の尾へと押し当てた。そこは笛のための孔だった。彼はそこを吹いた。――土の鳥の嘴から、軽やかな音が迸った。息を弱め、強め、少年は自分の土の小笛を吹き、変化に富んだよく響く音を生み出した。母親は笑いながら言った



— Сынок-то у меня какой искусный! Какую птичку сделал! Смотри за нею, держи ее крепче, как бы она у тебя не улетела.

メモ
искусный:熟達した、名人芸の、腕利きの
держать(←держи:命令形):(落ちないように)手に持っている、握っていく、抱えている(不完了体)
крепкий(←крепче:比較級): 堅い、強く、丈夫な
улететь(←улетела:過去形、女性形):飛び立つ、飛び去る(完了体)
 → улетать(不完了体)

 私の坊やはなんて腕が良いのだろう! こんな鳥を作るだなんて! 鳥を見て、しっかりと持っておいでよ、お前の鳥が飛んでいったりしないようにね



И ушла себе в хату, занялась своим делом. А мальчик на пороге задумчиво смотрел на свою птичку, тонкими пальчиками гладя её перья. 

メモ
заняться(←занялась:過去形、女性形):(一定の時に何かの仕事を)する、…に興味をもつ、関心を持つ(完了体)
 →заниматься(不完了体)
дело(←делом:造格):仕事、活動
задумчиво:物思いに沈んで、物思わしげに
гладя:副分詞
 →гладить:アイロンをかける、なでる、撫で付ける(不完了体)
перо(←перья:複数形):(鳥の)羽、羽毛

 「(彼女は)農家へと去り、自分の仕事をした。一方の少年は敷居の上で物思わしげに自分の鳥を見、細い指で彼女の羽を撫でていた」
 「母親は農家へと立ち去り、自分の仕事に取りかかった。一方の少年は敷居の上で、自分の鳥の羽を撫でながら、物思わしげにそれを見ていた」



Спросил ее тихо:

— Хочешь лететь?

メモ
тихо:小声で、そっと、静かに
лететь:(一定の時・一定の方向に)飛ぶ、飛んでいく(不完了体)

 「静かに彼女に尋ねた。『飛びたいのかい?』」



И всколыхнулись крылышки у птички.

Опять спросил птичку мальчик:

— Хочешь лететь?

メモ
всколыхнуться(←всколыхнулись:過去形、複数形):揺れ出す、揺れ始める(完了体)
 →всколыхниваться(不完了体)
крылышко(←крылышки:複数形): [指小・表愛]крыло
  →крыло:(鳥・虫などの)羽、翼
опять:もう一度、再び、また

 「鳥の羽が揺れ出した。もう一度少年が彼女に尋ねた。『飛びたいのかい?』」



И забилось сердце в груди у птички.

В третий раз спросил мальчик:

— Хочешь лететь?

メモ
забиться(←забилось:過去形、中性形): [始発]биться
 →биться:(脈・心臓が)打つ、鼓動する
сердце:心臓
грудь(←груди:前置格):胸、肺

 「鳥の胸の中の心臓が打ち始めた。三度目に少年は尋ねた。『飛びたいのかい?』」



И затрепетало все птичье легкое тельце, поднялись перья, и забились крылышки, — защебетала птичка, поворачивая головку вправо и влево.

メモ
затрепетать(←затрепетало:過去形、中性形) [始発](完了体)
 →трепетать:(小刻みに)震える、揺れる、はためく(不完了体)
легкий(←легкое:中性形):軽い
защебетать(←защебетала:過去形、女性形):[始発](完了体)
 → щебетать:(ツバメ・ヒワなどが)囀る(不完了体)
поворачивая:副分詞
 →поворачивать:…の向きを変える、反対方向へ向ける、回す(不完了体)
  → повернуть(完了体)
вправо:右へ、右側へ
влево:左へ、左側へ 

 「鳥の軽い全身が震え始め、羽が立ち上がり、翼が打ち始めた。頭を右へ左へと回しながら、鳥がさえずる」。 
 「鳥の軽やかな全身が震え始め、羽が立ち上がり翼が打ち始めた。頭を左右に回しながら、鳥がさえずった」



Мальчик раскрыл руку. Полетела птичка. И слышен был в яркой синеве воздушной её радостный щебет. Все дальше. Все тише. Все выше знойное солнце. Все душнее неподвижный воздух.

メモ
раскрыть(←раскрыл:過去形、男性形):(箱などを)開ける、開く(完了体)
 → раскрывать(不完了体)
полететь(←полетела:過去形、女性形):飛び立つ(完了体)
слышеный(←слышен:短尾形、男性形): 聞こえる、聞き取れる
воздушный(←воздушной:女性形、生格?):空気の、大気の
далёкий(←дальше:比較級):遠い
душный(←душнее:比較級): (空気が濁って)息苦しい、蒸し暑い、暑苦しい
неподвижный:動かない、静止した

 「少年は手を開いた。鳥は飛び立った。明るい藍色の空気の中に、彼女の嬉しそうなさえずり声が聞こえた。更に更に、遠ざかる。更に更に、小さくなる。更に更に、火のような太陽は昇っていく。更に更に、動かない空気は重苦しくなっていく」






 肺病みのセリョージャが見る、鳥の夢。鳥は笛でもあり、セリョージャはそこに息を吹き込む。
 生きているかのような鳥。セリョージャが作った鳥。土から産まれた鳥。彼に吹き込まれた息で、鳥は鳴く。
 母親に捕まえていろと言われたにも関わらず、セリョージャは鳥を手放してしまう。飛び立った鳥は遠ざかり、太陽は熱くなり、彼を取り巻く空気は重苦しくなる。
 要するに、死期が近いぞコレ。


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