衝撃の瞬間シーズン5#06「上空での大惨事」



 ナショナルジオグラフィックチャンネルで「メーデー!」と双璧をなす「衝撃の瞬間」から1話ご紹介。今回はシーズン5の第6話。
 Amazonプライムでは同シリーズの5が1話以外配信中。シーズン6は10話「長崎~2発目の原子爆弾(原題のサブタイトルは忘れられた爆弾)」だけが配信中。シーズン2はプライム特典には含まれず、全話を各216円で配信中。
 huluではナショナルジオグラフィックチャンネルをネットを介してリアルタイム配信している。

 ちなみに、同ナショジオの別番組「メーデー!」ではシーズン2の第5話で同じくこのユーバーリンゲン空中衝突事故を扱っており、それぞれの番組のコンセプトの違いが分かりやすい。
 そして私はやっぱり「メーデー!」の方が好きだ。「衝撃の瞬間」は人間に完璧を求めすぎているように思う。正確に言えば、人間の行為の精度を高く見積もりすぎているように感じて、なんとも行き詰まりなのだ。
 人間なんて所詮は動物で、物事の全てを自分の都合の良いように曲解するように生まれついており、客観視なんてどだい無理な話だと、私は思います。
 不完全で不確実なのがこの世界だとも思うのだが、「衝撃の瞬間」制作陣はどうも違う信念をお持ちのようだ。



 子を失った親の悲嘆が前面に出る「メーデー!」版とは異なり、「衝撃の瞬間」版は事故の直接的な原因となった管制官が刺されるところから始まる。
 そして刺した犯人は言うのだ。これは復讐ではなく、報いだと。同時に事故で亡くなった自身の家族に謝罪の言葉が欲しかったとも言う。私にはその二つの上述の整合性が理解出来ない。どちらにせよ殺したかったとしか思えない。
 そして妻子を失った男の手により、管制官の妻と子たちは父親を失った。


 「衝撃の瞬間」では、悲劇の飛行機となるバシキール航空2937便に乗ることとなった旅行を、選ばれた才能ある子供達向けではなく、まるで一般の旅行のように記述する。
 2002年夏のある日、彼ら子供たちと、幸運にも同乗を許された一般客を乗せて、チャーター便であるバシキール航空2937便はスペインのマドリッドに向かいドモジェドヴォ国際空港を後にした。
 そして遠く離れたバーレーン国際空港から出発したDHL611便は、イタリアを経由しドイツに向かうべく飛び立った。

 この二機が交差することとなるドイツ南西部は、スイスが管制を行っていた。実際に管制業務を行うのは、スイス政府が出資する民間企業のスカイガイド社である。
 交通量が少なく、離発着もほぼない夜間の管制は、二人体制で行われていた。そして片方が長い休憩をとり、実質一人体制となることをスカイガイド社上層部は黙認していたと言う。
 その夜もまた、管制官の片方が長い休憩に入り、管制業務は一人の肩に負わされることとなった。更に予定外の着陸業務が発生し、その上、機材のメンテナンスが入り普段より機能が制限されることとなった。
 管制官は他の管制へのヘルプを求めるが、電話は繋がらない。スカイガイド社の管制官は、一人で業務を負担せざるを得なかった。

 そんな中、問題の二機が接近しつつあった。だが未だ着陸業務に手間取る管制官は気が付かない。普段なら機器から発せられる警報も、今日はない。
 徐々に近付く二機にようやく気が付いた管制官は、それぞれに指示を出す。だがそれは航空機に装備が義務づけられたTCAS(空中衝突防止装置)は、管制官とは正反対の指示を出した。
 ロシア圏のバシキール航空は管制官の指示に従い、そしてヨーロッパ圏であるDHL611便はTCASの指示に従った。
 結果、二機は空中で激しく接触し、共に墜落。生存者はゼロであった。



 TCASと管制官の指示が食い違った場合、どちらに従うかの国際基準がなかったこと、しかもそれは同様の理由で、この事故の一年前に日本で日本航空便同士が衝突の危機に遭ったにも関わらず放置されていたことは、「衝撃の瞬間」版では触れられない。
 ヨーロッパではTCASに従うことになっていた、とか言われても知らんがなとしか思えなくて、割と真剣にムカツク。ヨーロッパの空ですら、飛んでるのはヨーロッパ圏の飛行機だけじゃないって。
 前年の日本のニアミス事故にはノータッチだが、こちらは日本航空機同士ですら起こっているのだから、きちんとした基準が必要なのは明らかだと思うのだが。
 故に、ヨーロッパの基準とやらに従わなかったからと言って、ロシアパイロットが責められる所以もなかろうに。

 「メーデー!」版では逮捕後の裁判前で終わっていた犯人のその後が、「衝撃の瞬間」版では明かされる。
 彼は結局、責任能力があるとして裁判にかけられたものの心神耗弱が認められ、スイスで懲役八年を言い渡された。その後、刑は短縮され2007年にはロシアへの帰国を果たした。




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