「この作品の主人公たるイヴァンさんって、両親が亡くなって以来の独身者の割に、独身生活に不慣れすぎない? 確かソログープって長いこと独身で、妹が亡くなった翌年に結婚してたよな。その妹も妻も不在な、一人暮らしの間の出来事が本作のモチーフなのかも?」
……との疑問が湧いたので調べて見た。だってなんか描写に妙なリアリティーがあると思わない?
ソログープの年表はWikipedia英語版より。
ソログープ (1863年3月1日(旧暦2月17日)生―1927年12月5日没)
・1907年6月28日:妹死去
・1907年7月:25年間勤めた教師の職を辞す
・1908年秋:翻訳者であり作家希望であったアナスタシアと結婚
結婚した時期だけ「秋」とアバウトな表現なのは何でなんだよWikipediaさん。
一方「Иван Иванович воскрес(イヴァン・イヴァノヴィッチは甦れり)」の初出(たぶん)は、下に記した出典元の脚註によると1909年3月29日の雑誌слово. No.751とのこと。
あれコレやっぱり、ソログープさんの独身時代の終わりを描いた作品なんじゃないか。
と前置きが長くなったが、以下今回の翻訳。
出典は以下: «Собрание сочинений в восьми томах Том 3. Слаще яда»収録、«Книга стремлений»項目内«Иван Иванович воскрес» (БИБЛИОТЕКА РУССКОЙ КЛАССИКИサイト内、Федор Кузьмич Сологубのページより)
今回も、
例によってツッコミ等は歓迎しております。
以下は、いつもの七転八倒な和訳への道。
注:色つき文字部分は、私(春色)の独り言。
太字は原文、もしくは最終的な日本語訳。
Все чаще и чаще повторяют Ивану Ивановичу знакомые и случайные, сегодняшние приятели:
– Женитесь, Иван Иванович, воскреснете.
メモ
часто(←чаще:比較級):しばしば、たびたび
повторять(←повторяют:現在形、三人称複数形):繰り返して言う、繰り返してする;(像を)映す、反映する;(音を)反響させる;…とそっくりである(不完了体)
→完了体:повторить
случайный(←случайные:複数形):偶然の、思いがけない、不測の、不意の
сегодняшний(←сегодняшние:複数形):今日の、本日の
приятель(←приятели:複数形):親しい知人、友人
жениться(←женитесь:命令形):(男が)結婚する(完了体・不完了体)
воскреснуть(←воскреснете:現在形、二人称複数形):(死者が)復活する、甦る(完了体)
→不完了体:воскресать
все чаще и чащеで一つの慣用句なのかな……。まんま訳すと「全くしばしば&しばしば」か? 「ますます頻繁に」とかで良いのかな。どうなのかな。
「ますます頻繁にイヴァン・イヴァノヴィッチは繰り返し言われた知り合いと偶然なる今日の友人たちに。
『結婚しなさいな、イヴァン・イヴァノヴィッチ、復活するわよ』」
復活って何だよ。タイトルに使われている分には詩的な表現だとしてスルーしたけれど、一般人の台詞でコレって一体。
「ますます頻繁にイヴァン・イヴァノヴィッチは繰り返し言われるのだった、知り合いや偶然なる今日の友人たちに。
『結婚しなさいな、イヴァン・イヴァノヴィッチ。生き返るわよ』」
日本語だと倒置法になってしまって、強調してる感が出るなぁ。ロシア語ではどうなんだろう。
Все чаще и чаще повторяет себе Иван Иванович:
– Женюсь – воскресну.
「ますます頻繁にイヴァン・イヴァノヴィッチは繰り返し自分自身に言うのだった。
『結婚して―生き返る』」
Нелегко было Ивану Ивановичу решиться на это. Привычки холостой жизни были ему сладки, и страшила неизвестность.
メモ
нелегко:かなり重く、結構重く;結構手間の掛かる、苦労に満ちた;[無人述]つらい、苦しい、切ない
решиться:(迷った・躊躇った後に)決心する、決める、敢えて[思い切って]…する(完了体)
→不完了体:решаться
привычка(←привычки:生格):習慣、習性、クセ;慣れ、習熟、熟練
холостой:(男性が)独身の;独身者
страшить(←страшила:過去形、女性形):恐怖させる、怯えさせる、心配させる(不完了体)
неизвестность:未知なこと、未体験のこと、無知のこと;得体の知れないもの;消息不明
「苦労に満ちていた、イヴァン・イヴァノヴィッチがこのことを決心することは。独身生活の習慣は彼にとって甘く、未体験のことは恐怖させた」。
お?
「イヴァン・イヴァノヴィッチがこの決心をするのは、つらいことだった。独身生活の習慣は彼に取って甘いものであり、未知なるものは恐怖であった」。
Но счастье подстерегает человека на всех путях его. Как ни бежит от него человек, оно таки раскидывает над ним, как мальчик над бабочкою, свою радужную сетку, и ловит упрямого, и сажает его в коллекцию счастливых.
メモ
подстеречь(←подстерегает:現在形、三人称単数形):待ち伏せする、そっと見る、見て取る(完了体)
→不完了体:подстерегать
как
ни:いかに…であっても、どんなに…しても
таки:実際に、本当に;結局、ついに
бежать(←бежит:現在形、三人称単数形):[定](人・動物が)(一定の時に・一定の方向に)走る、駆ける;(口)(どこかへ・どこかから)急いで行く[来る];逃げる、逃げ出す
раскидывать(←現在形、三人称単数形):方々へ投げる、投げ散らかす、ばらまく(不完了体)
→完了体:раскидать
бабочка(←бабочкою:造格):蝶、蛾
радужный(←радужную:女性形、対格):虹の;虹色の;七色の;希望に満ちた、楽観的な
сетка(←сетку:対格):小さな網
ловить(←ловит:現在形、三人称単数形):(物・人・動物などを)捕まえる、捕らえる(不完了体)
→完了体:поймать
упрямый(←упрямого:生格):頑固な、強情な、意固地な;根気良い、粘り強い、執拗な
сажать(←сажает:現在形、三人称単数形):座らせる、席につかせる;(乗り物に)乗せる(不完了体)
→完了体:посадить
коллекция(←
коллекцию:対格):コレクション
счастливый(←счастливых:複数形、生格):幸福な、幸せな
「しかし幸福は人々を待ち伏せしているのだ、彼の全ての道で。幸福から人間がいかに逃げ出そうとも、幸福は結局方々へと投げる彼の上に、まるで少年が自分の希望に満ちた網で蝶の上にやるように、そして捕まえる粘り強く、彼を幸福なコレクションへと座らせる」。
「しかし幸福とは、その全ての道で人々を待ち伏せしているものなのだ。人間が幸福から如何に逃げだそうとしようとも、結局はその上に投げかけるのだ。まるで少年が自分の希望に満ちた網で、蝶の上にやるように。そして粘り強く捕まえ、それを幸福なコレクションへと鎮座させるのだ」。
И особенно, если это человек зрелого возраста, но еще без единого седого волоска, на хорошем счету у своего начальства, первый кандидат на должность начальника отделения, да и сам кое с какими средствами.
メモ
особенно:特別に、特に;なによりもまず、何物にも増して、とりわけ
зрелый(←зрелого:生格):(果実などが)熟した;(人間が)成長した、一人前になった
возраст(←возраста:生格):年齢、年
единый(←единого :生格):(ふつう否定詞とともに)ひとつの
седой(←седого:生格):(髪の毛が)白くなった、白髪の;(毛皮・羽毛などが)白っぽい毛の混じった;灰白色の
волосок(←волоска:生格):[指小形]волос:毛
счёт(←счету:前置格):数えること、計算、勘定;(ふつう複)貸し借りの精算、不満、恨み
начальство(←начальства:生格):[集合]首脳部、当局、上司;指揮権、管理
кандидат:候補者
должность:任、職、地位、職務
начальник(←начальника:生格):長、長官、管理職、上司、上役
отделение(←отделения:生格):分離、区分;支部、支局、支所、部、科
средство(←средствами:造格):方法、手段
「そしてなによりもまず、もしこれが一人前の歳の人間ならば、しかし既に一つの白髪もなしに、優れた計算の中に自分の管理の側に、支所の長の地位の中の第一の候補者、そう自身のこの方法で」
意味が分からない。特に後半が。
「そしてなによりもまず、一本の白髪もなしに一人前の歳になった人間であるならば、自分の上司の良い勘定の中で、支部長の地位の第一の候補者となっているだろう、そう自分自身の方法で」。
隠しきれない、無理矢理訳した感。
次回、イヴァン・イヴァノヴィッチ結婚する……のか?
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