2016年7月30日土曜日

旧ソ連の怪奇ファイル パート2




 鉄のカーテンが開かれた今、長年秘密にされていたファイルに光が当てられる……。な感じのナレーションで始まるこのシリーズ。
 邦題のせいか、なんだかとっても面白くなさそうに見えるが、しかしこれ結構面白いよ。B級な上に取り扱われる話題に統一感が皆無だけれど。
 元々が「ザ! 世界仰天ニュース」みたいな番組で一部でも使って貰うのが目的なんだろうな、と思われる作りで、ナレーションに重複が多め。
 そして今回は、最後の話題が閲覧注意。グロが駄目、特に犬好きな人間にはダメージが大きい。「倫理観なんて母親の胎内に忘れて来たわー」な私でも、ショッキングすぎて引いたくらいである。



 複数の話題をごっちゃに展開する今作の最初は、「悪魔の墓場」。
 シベリアはイルクーツクの奥地レンペルにこの呪われた場所はある。それが最初に発見されたのは1908年。荒れ地の中央に開いた穴からは煙が漂い、動物の死骸が転がっている。
 そこを通りがかった家畜は突如倒れ、周囲に住まう人間達は精神も健康も蝕まれ、特に新生児への影響は顕著だった。
 その噂を聞きつけた人間達が冒険心によって向かうが、しかし帰って来た者は多くなく、また帰還者も健康とは言い難かった。村人たちはその地に迷い込む者がいないようにと、その地に悪魔の像を建てた。
 怪奇現象の存在自体を認めていなかったソ連もついには重い腰を上げ、件の土地から全ての人間を移住させ、事件は一度幕を下ろす。

 が、時代は流れ、この土地に挑む無法者が登場する。既に75人もの冒険者を飲み込んだこの地に挑むべく、彼は2年もの歳月を準備に費やし、死の覚悟を持って仲間と主に赴いた。
 周囲を散々迷った末にようやく辿り着いた土地には、禍々しい悪魔の像が建っていた。噂通りだ。
 中央の穴からは煙が立ち上り、コンパスはくるくると回り、持参した電磁気測定装置は異常な高値を叩き出す。冒険者たちにも直ぐに変化が訪れた。四肢の麻痺、頭痛、歯痛、吐き気。
 危険を感じた彼らはその地を去り、近くにテントを張るが、しかし豊かな森にも関わらず動物の気配はしない。ただ聞こえるのは風の音だけ。空には鳥もいない。不気味だ。
 この地は一体どうしてしまったのだろう。本当に悪魔の呪いなのか?

 ロシアに多い泥炭火災に、同年400km離れたツングースカへの隕石。それらの事実が明かされてしまうと、一気に怪奇現象感は消失してしまうのだが、しかし、今も調査は行われず、今もこの地は確かに存在するのだと思うと、簡単には形容できない気持ちになれる。


 2つ目の話題は、「ロシアの野人」。
 ロシアではコーカサス山脈で、古くから数多くの目撃報告が上がっているそうな。それは森の中に住み、服は着ておらず、全身が黒い毛で覆われており筋肉質、大柄で身長は2mから2m半ほど、体重は推定で200kg以上。
 多くの目撃例が挙がっていることから本当に実在している可能性はあるが、しかし野人そのものが捕獲あるいはその死体が発見されたことはないとのこと。足跡や毛などの、所有者曰くの「証拠」も多いのだが、結局のところは闇の中。


 次の話題は「火の山」。事件が起こったのは、コーカサス地方のカラチャイ。
 登山愛好家の一行がテントで寝ていたところ、ソレは突然に現れた。発行する球体だ。
 それは浮遊しながら何度も一行を襲い、触れたところは焼け爛れた。狭いテントに立ちこめる光と熱、そして肉の焼ける臭い。
 必死に助けを呼んだものの、内一人が死亡し、生き残った人間にも重い火傷が残った。

 この発光物体は「電球現象」と呼ばれ、世界各国で報告例が挙がっているのだそうな。
 そのメカニズムは意外なことに解明されている。必要なのは雷などの強烈なエネルギーの発生源。そして空気中に漂う球の元となる粉体。
 ロウとマッチと電子レンジだけでお手軽に再現出来るのに、衝撃を受けた。


 最後の、そして最も衝撃的な話題は「医学実験」。
 国のために倫理観を差し置いた実験が行われるのは、過去にも例のあることだが、ここソ連でもそれは行われていた。
 地図から抹消された秘密都市を数多く抱えていたソ連だが、この舞台となったのは意外なことに大都市モスクワである。
 1920年代に医師ブリュコネンコは、とある実験に手を染める。戦争を経験した彼は、臓器移植の可能性に賭けたのだ。彼が行ったのは、臓器を生きたまま取り出す方法。
 彼はそのために血液を循環させる装置を自ら発明し、実地に挑んだ。最初は犬の心臓、そしてより複雑な組織として犬の頭へと実験を進める。血液を循環させるだけでは酸素不足に陥るため、犬の頭に繋いだ機械には、別の犬から取り出した肺も接続した。
 実験は大成功。機械に繋がれた犬の頭は反応を示し、不思議そうに瞬きまでし、3時間半も生きた。
 この「成果」は1940年代に記録映画として発表され、世界に衝撃を与えた。彼らは考えた。この夢の機械に接続さえすれば、自分も永遠を生きられるのではないか、と。
 しかし時代は変わり、鉄のカーテンがブリュコネンコのその後の実験を覆い隠してしまう。

 ブリュコネンコと同じく、この手の実験に手を染めた男がもう一人。彼の名はデミコフ。彼は医師ではなく生物学者である。
 彼は臓器をコントロールする神経に興味を持ち、それを知るために実験をした。子犬の上半身を、成犬に接続した。つまり、二匹の犬を一匹にしたのだ。
 子犬は成犬の耳に噛みつき、成犬に怒られた。この悪夢のような成果に、デミコフの上司が難色を示し、彼の実験にはストップが掛けられた。が、しかしデミコフにより「神経系」という概念が生まれたのは確かなのである。

 彼らの行為は鉄のカーテンに隠されたことにより逆に神格化され、ブリュコネンコは己の機械により死者の蘇生に成功したのだという噂までもが流れる。
 科学者というものは、好奇心の塊である。そして好奇心は容易に倫理を殺す。
 だがそもそも、倫理観とは何だろうか。それは絶対なものか? 倫理観は時代によって移り変わるものだ。そんな変わり得るものを信奉して良いのだろうか。
 神への冒涜? それは神を信じぬ人間には無意味な問いかけだ。
 二つの頭を持つ犬の姿は衝撃的であるが、しかし正常と異常の境目がどこかと問われると私には分からない。
 既存の概念、それは時として禁忌と呼ばれる、に挑むからこそ彼らは科学者と呼ばれる存在なのだ。



 B級だなーとか思いながら見ていたのに、最後の最後で強烈なのが登場して何だか真面目に考え込んでしまった一作でした。
 ブルガーコフに『犬の心臓』って作品があるけど、それってこの件に影響受けているのかなーとか、犬を使ったブリュコネンコとデミコフの実験についてもっと知りたいような知りたくないような気がするとか、割とグルグルしている。


関連記事:
旧ソ連の怪奇ファイル パート1


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