アンソロジー『ロシア幻想短編集』


獣が即位した国: F.ソログープ作品集 露西亜文学散歩
獣が即位した国: F.ソログープ作品集 露西亜文学散歩フョードル・クジミチ・ソログープ 西 周成

アルトアーツ 2016-07-15
売り上げランキング : 61915


Amazonで詳しく見る by G-Tools

 アルトアーツさんから発売された一冊。ご注文は別の生活ストア(Alt-Life Store)から。
 Amazonでは発売していないので、いつもAmazonから引っ張っている書影がない。代わりに同じくアルトアーツが発売しているKindle版「獣が即位した国」のを貼っておく。

 収録作品は以下。
  ・「オルゴールの中の街」 オドエフスキー
  ・「勝ち誇る愛の歌」 ツルゲーネフ
  ・「酔っ払いと素面の悪魔との会話」 チェーホフ
  ・「夢」 クプリーン
  ・「獣が即位した国」 ソログープ
  ・「ストラディヴァリウスのヴァイオリン」 グミリョーフ
  ・「魔法の不名誉」 グリーン


 一作目のオドエフスキー作品は、いかにも幻想的な作品。
 ミーシャが目にしたのは、素敵なオルゴール。その中には小さな街が広がっていた。オルゴールに惹かれたミーシャは、その仕組みを考え始めて……。
 なんとなくホフマンの「くるみ割り人形」を連想した。あちらの方が不気味さは際立っているが。


 二作目は、ツルゲーネフの「勝ち誇る愛の歌」。オリエンタルと言うか、南アジアっぽいと言うか、まぁ、ヨーロッパの人はこういうネタ好きよねと言うか。
 ゲスい想像も可能なラストは割と好きです。


 チェーホフの「酔っ払いと素面の悪魔との会話」は、もはや一種の様式美的な展開。
 この手の話で長編ならアンドレーエフの『悪魔の日記』がオススメ。……そういえば、この本の感想もまだ書いていないな。
 悪魔の可哀想度合いなら『悪魔の日記』の方が上なので、気になる方は探してみてくださいな。


 クプリーンの「夢」は、散文詩的な一作。
 革命後は西側に移住したというクプリーンは、後にこの自分の作品に対してどんな感想を抱いたのだろう。


 ソログープの「獣が即位した国」は、私がこの一冊を買う理由となった作品。初翻訳。
 ソログープの作品は大きく分けて、現実から派生した作品と全くの幻想作品とがあると思うのだが、今作は後者。
 良く似た二人の少年、その内の一人が運命の悪戯により王となる。彼は片割れを側近に取り立てたが、しかし徐々に疑心暗鬼に囚われていき……。
 単純にバッドエンドとも言い切れない、不思議な読後感の一作。


 続いてのグミリョーフの作品は、トーマス・マンの『ファウストゥス博士』を思い出した。
 若いときに優れたヴァイオリンであるストラディヴァリウスをその才能故に与えられ、大家となったパオロは、作曲の苦しみに足掻いていた。そんな彼の心に忍び寄るのは……。
 知らなければ良かったこと、というのは実際にあるもので。けれど一度知ってしまえば、もう知らなかった頃には戻れない。そんな誰もが知る感覚を織り込んでくるあたり、巧い作品である。


 最後は「魔法の不名誉」。幻想というか怪奇小説とも呼べそうな一作。
 ラストの救いの無さも相まって、何とも言えない雰囲気を作り出している。



 Amazonでは「獣が即位した国」、「勝ち誇る愛の歌」、「ストラディヴァリウスのヴァイオリン」の3作が、それぞれ多少の補強付きでKindle版として発売されているので、単品で欲しいという方はどうぞ。

勝ち誇る愛の歌 露西亜文学散歩
勝ち誇る愛の歌 露西亜文学散歩イワン・セルゲーヴィチ・ツルゲーネフ 西 周成

アルトアーツ 2016-05-28
売り上げランキング : 131175


Amazonで詳しく見る by G-Tools


ストラディヴァリウスのヴァイオリン: N.グミリョーフ短編集 露西亜文学散歩
ストラディヴァリウスのヴァイオリン: N.グミリョーフ短編集 露西亜文学散歩ニコライ・ステパノヴィチ・グミリョーフ 西 周成

アルトアーツ 2016-06-20
売り上げランキング : 189176


Amazonで詳しく見る by G-Tools



関連記事:
アンソロジー『ロシア怪談集』
アンソロジー『ロシアのクリスマス物語』
アンソロジー 『世界名著梗概叢書 第3編』
ソログープの「白樺」を電子書籍でまとめたよ
アンソロジー『こどもの風景(新・ちくま文学の森)』


0 コメント:

コメントを投稿