梶雅範『メンデレーエフ 元素の周期律の発見者(ユーラシア・ブックレット)』



 NHKラジオのまいにちロシア語10月号を買ったら、連載の「日露の400年~その知られざる歴史」でメンデレーエフの話が出て来たので、以前書いておいたこの本の感想を書き直そうと思った次第。



 どの分野であれ、黎明期の話と言うのはワクワクするものだ。新たなフロンティアに乗り出すことは、たった一度の出来事だから。
 今でこの常識となっている「元素」という概念だが、19世紀前半ではまだ完全には「発見」されていなかった。
 西欧に遅れるロシアのその時代の中で、メンデレーエフがいかにして周期律(周期表)を発見したのか、またその後の彼の研究と人生の歩みについて、薄い本ながら彼が生きた時代の背景を踏まえつつ豊かに伝えてくれる一冊。


 何度か繰り返される「落ち穂拾いのような研究は彼の好みではなく(p.29)」という記述が、私の胸を抉る一冊でもある。
 い、いいじゃないですか、落ち穂拾っても!
 印象深いのはメンデレーエフの最初の妻との子であるヴラジミールが、メンデレーエフの口添えによりロシア最後の皇帝ニコライ2世(当時は皇太子)のアジア諸国旅行に乗り合わせ、日本にも訪れているというくだり。
 しかもかの大津事件のロシア側の証拠写真を撮ったのが彼かもしれないと言うのだから、なかなかに面白い。
 更にヴラジミールは日本滞在中に日本妻(契約妻)と思われる女性タカとの間に娘を設けており、彼の若すぎる死の後はメンデレーエフその人が孫の養育費を送っていたと言うのだから、律儀な人である。
 ロシアと日本の関係の悪化、関東大地震などがあり、メンデレーエフと日本の孫との関係は断たれてしまうのだが(震災によりタカと子供は死亡したとされているが、信憑性に疑問がある)、その子孫が日本に今も存在しているかもと想像すると、妙な親近感が湧く。


 話題として化学用語がポコポコ出てくる上に、紙面の関係もあってか説明は手薄となっているが、まぁ別に気にしなくても良いかなって。
 著作リストを見るに、普段はかたい科学書を書いている方のようですね。



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